砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない/桜庭一樹
可愛くて、残酷で、ポカリスエットのCMのようなキラキラ眩しい大好きな作品。
主人公は13歳の中学生・山田なぎさちゃん。鳥取県の田舎で、引きこもりの美しい容姿のお兄ちゃんと、明るく陽気なお母さんと3人で暮らしている。
全く問題がないとは言えないけれど、
家族それぞれが、絶妙なバランスを保って仲良く過ごしていた。
そんなある日、東京から転校生がやってくる。
彼女の名前は海野藻屑「ウミノモクズ」。
斬新すぎる名前。
父親は有名なミュージシャン。
ボサボサの髪から覗く青白く美しい顔。
クラスメイトの羨望の眼差しをよそに初日から、
「ぼくはですね、人魚なんです。」と
メルヘンワード全開で自己紹介をするモクズちゃん。
私なら完全に”この子とは関わらないでおこう”方面に面舵いっぱいである。
なぎさちゃんも彼女には関わらない方行でいくはずだった。だが彼女の健闘も虚しく、なぎさちゃんはモクズちゃんに懐かれてしまう。
モクズちゃんの、かまってちゃん攻撃をサラリとかわしても、彼女のホワホワと甘いお菓子のような世界観に巻き込まれて、毎回困惑するなぎさちゃん。
モクズちゃんとは違い、なぎさちゃんは社会に通用する“実弾”を必要としていた。
すぐにでも世の中に入り込み、一人前の大人として現実的に生きていける手段。
彼女はそれを”実弾”と呼び、文字通り実弾を求めて中学を卒業後に自衛官になると決めていた。
思春期にやってくる
大人でも子供でもない、何者でもないような感覚。
このくらいの年頃って自分がすごく非力な感じがするのはなぜなんだろう。
そんな対照的な2人は、ある日クラスの男子と三人で映画を見に行く。(この経緯もまた切ない。)
その日の帰り道、なぎさちゃんは、モクズちゃんが抱えている、とてつもなく残酷な現実を知る。
自分には無いものを全て持っているモクズちゃんを、幸せなお姫様だと思っていたなぎさちゃん。
モクズちゃんがいつも彼女に放つ蜃気楼のような嘘や、甘ったるい妄想の理由を知った時、二人の間にえも言われぬ絆が生まれる。
こうして不思議な友情で結ばれた二人の女の子たちは、
何もわかってくれない大人たちに、面倒くさいクラスメイトに、必死に立ち向かっていこうとするのだが、その度に沢山の感情が次から次へと押し寄せて、
胸がギュっとしめつけらてしまう。
あまりにも悲しすぎるラストへ向かって、物語は進むのだけれど、
作中で彼女たちの交わす他愛もないやりとりや、甘酸っぱい恋心、愛おしく悲しい思い出たちは、美しい彩りや救いとなり、
読後には、爽やかさと切なさで思わずため息がもれてしまう。
ファンタジーな青春ストーリーだけれど、不思議と懐かしい気持ちになれる作品。
そして男子諸君、
クラスの仲の良い女子に、
「俺の好きな女子との仲をとり持て。」
などと残酷な弾丸をぶち込むような男にならないでほしい。
大概その子多分君のこと好きだから。