ころり

好き勝手つらつら

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旅するボート①

 みなさん、ボートに乗ったことはありますか?海で潮のかおりを感じながら、みずうみでおだやかな風をうけながら…うんうん、あちこちから心地よい思い出がきこえてきます。  でも、みなさんをささえるボートはたいへんです。まいにちかおを真っ赤にして、右に左にゆれながらみんなをささえています。あちらこちらを行ったり来たりしたがる、元気な大学生たちなんてのせてしまったら大変です。ひっくりかえらないようふんばりつづけて、おきゃくをおろすころには目がまわってはきそうです。  今日の主役は、ちい

    • 5本足のくも②

       5本足のくもは一晩泣き続け、あんなに楽しかった冒険をやめてしまいました。5本の足でどうとびまわったらいいのかわからなくて、怖くなってしまったのです。短くてみんなから笑われるような2本の前足でも、無いよりはずっと幸せでした。 「気高いちょうは仲間に食べられちゃったかな。やんちゃなバッタも、約束していたカナブンも、もう二度と会えないんだ」 さみしくなって、くもはまた泣きました。  ある日、ママがくもにえさを分けながら言いました。 「もう、冒険には行かないのかい?」 くもは答えま

      • 5本足のくも

         そのくもは、ほかの仲間に比べて2本の前足がとても短いじょうたいで生まれました。彼が生まれたとき、ママは 「ただでさえクモは人気のない生きものなのに、仲間とも違うところがあるなんて」 と、なみだを流したそうです。パパがこっそり教えてくれたとき、くもはふしぎに思いました。 「遠くからでもぼくがわかるって、すてきじゃない?」と思ったからです。 でもパパにたずねると、近くにいるママがいつも決まってくもをにらみつけ、そんなこと口にしてはいけません、と厳しい口調で言うのでした。パパはそ

        • 僕を大人にするのです。

           例えば職場で時間休を取って、早上がりした日なんてのは良い例なのだが。  なんとなく時間を得した心地になって、気分も良くなったりして、普段より肌で季節を感じちゃったりなんかして。別に1日24時間というタイムリミットはいつもと変わらないのに。  『呪術廻戦』ではナナミンが、大人になることについてこんな名言を残している。↓ かっこよくて、ナナミンらしいなあ〜と思う。社会を経験した渋い漢だけに、言葉の重みが違う。そう噛み締めると同時に、 「小さな絶望の積み重ねがあるなら、小さ

          村に霜が降りる頃②

          その翌日から、青年はご近所をまわって大掃除の手伝いを始めたようでした。夜になると外に出て、村の家々が一軒、また一軒と明かりを落とすのを静かに眺めました。年が明けると村中の雪かきを始め、3月には女性の家で重い雛人形を押し入れに片付けてくれました。村人たちはだんだん顔色の明るくなる青年を、静かに見守り続けます。  つくしの季節が来て草刈りの時期も過ぎ、落ち葉の絨毯を懐かしむ時期になると、青年は率先して稲刈りをしました。女性は汗を拭く青年に麦茶を入れてあげながら、ふと尋ねました。「

          村に霜が降りる頃②

          村に霜が降りる頃

          昔々あるところに女の子が住んでいました。  女の子の住む小さな村には、子どもは彼女の他にふたつ年上の男の子がひとりだけでした。男の子は女の子にいつもやさしくいろんなことを教えてくれたし、よく絵本を読んでくれました。大人たちもたった2人の子どもを「村の宝」と言ってたいそうかわいがってくれたので、女の子は自分の村が大好きでした。  女の子は、八百屋の裏に広がる原っぱが好きでした。春はかわいいつくしが芽を出し、夏には草が伸びて緑が濃くなります。まだ体の小さなころは、伸びた草の影

          村に霜が降りる頃