IPO準備/上場会社でひと工夫 Part.13 - リテラシー教育のひと工夫 -
IPO準備会社と上場会社。それぞれ立場は違いますが、意外にもその悩みどころや解決策に共通点があります。ここではその " ひと工夫 " をご紹介します。
今回は、社内教育のテーマのうち「リテラシー」についてのひと工夫です。
会社は「リテラシー教育の場」
皆さんの会社の社内教育は順調に実施していますか?会社で行う社内教育は、年々数が増えている傾向です。例えば、労基法関係ではハラスメント教育は労働施策総合推進法に基づく義務化、上場会社では特に新任役職員向けに管理職研修、これらのほかにも業務研修等様々あります。新卒社員の皆さんは、学校を卒業したのにさらに教育・研修がたくさんあることで大変驚かれているかもしれません。しかし、私たち社会人は業務の実践で学ぶことも必要ですが、業務で大変な、取り返しのつかない失敗をする前に、教育・研修で法令や社会慣習、先輩方の貴重な経験を踏まえた形の知識を学ぶことが必要なのかもしれません。その教育・研修を受講したおかげで同様の失敗を繰り返さない会社、その失敗を乗り越えて大きく飛躍できる会社はとても強いです。逆に、同じような失敗を繰り返す会社、その失敗を教訓として後輩従業員に語り継がない会社は、心許ない会社と思われたり信頼を置ける会社とは思われないかもしれません。そんなことにならないように、ぜひ会社は数多い社内教育を効率良く行いかつ効果的な成果を挙げるよう実施していただきたいですし、受講する従業員の皆さんもただ聞くだけでなく、実行できるよう準備していただけたらと思います。
今回の記事では、その受講した内容を実行できる力のことを「リテラシー」と言い換えます。リテラシーとは読解記述力と言い、適切に理解し解釈し分析しそれらを記述・表現する力のことを言います。会社で実施する教育・研修は、単なる知識を学ぶ場ではなく、学んだ知識を業務において実践で使いこなし、経験を積んでもらうことを目的としています。ですから学校のように単に学ぶだけではなく、適切に理解し解釈し分析しそれらを業務に活かしてもらう「リテラシー」の力をつけるのが目的です。このように考えたうえで、皆さんの会社で実施している教育・研修を振り返ってください。「リテラシー」の力をつける教育・研修を実施されていますか?
業務に必要な「会計リテラシー」
リテラシーというと、少し以前に「情報リテラシー」が盛んに言われていました。インターネット上にある様々な情報に心動かされ、又は動揺し、その情報の真偽を見極めることをせずに鵜呑みにしてしまったために悲しい事件・事故や誹謗中傷事案が発生し、世間で情報リテラシーを高めることが必要であると言われたと記憶しています。会社の教育・研修でも、業務において目の当たりにした事象に対して適切に理解し解釈し分析して対応できる業務の力を養います。その業務の力のうち、皆さんの会社にお勧めする教育・研修のテーマが「会計リテラシー」です。他のテーマを差し置く必要はありませんが、この会計リテラシーを強力に養っていただくと業務において頼もしい力になりますし、ひいては管理職候補、次の経営者層を担う人材を育てることもできますので、特にお勧めです。
日本公認会計士協会では、会計リテラシーとは「お金の動き(経済活動)を理解し、より広く社会で活躍していくために必要な会計(記録・報告)の基礎的な知識」と説明されています(出典:日本公認会計士協会「会計リテラシーがあなたの生活に大切な理由」)。最近では小中学校、高等学校、大学において会計リテラシーについてかなり深めの教育がされていることに驚きました。ただし会社で必要な会計リテラシーは、身近な業務において必要な知識と実践的な内容のみで構いません。その内容とは、例えば自分が経費精算申請した経費について経理処理上どの勘定科目にあたるのか。原価と経費(販管費等)とは何か。原価・経費等費用をかけることに対する効果(費用対効果)をどのように考えるのかなどです。これらは経理部門や経営管理部門等数字に携わる従業員だけではなく、マーケティング部門、事業部門、できれば全従業員に学んでいただく必要があると思います。しかし、そのような数字に強い従業員ばかりではありませんし、数字にこだわる必要の無い部門があるかもしれませんが、それでもモノの考え方として学んでいただき、それを数字とは違う別なモノに置き換えて作業効率UPや業績・企業価値向上等を効果的に上げていくことを考えていただく。これも会社にとって必要な力です。
リテラシー=適切に理解し解釈し分析しそれらを記述・表現する力は、会社の基礎体力です。社内にずば抜けた能力を持つ従業員が少数在籍していても、会社の業績が中長期的に順調に向上していくとは限りません。しかし、会社は業績を中長期的に順調に向上させる、成長していく使命があります。そのためにずば抜けた能力を持つ従業員に頼り切り、又は業務の負荷を膨大に掛けてはなりません。そのような状態にならないためにも、全従業員にリテラシーを踏まえた教育・研修を実施し、中でも業務に直結する会計リテラシーの教育・研修を実施することをお勧めします。
業種・業態によってリテラシー教育は多種多様
上でご紹介した会計リテラシーは、あくまで会社の基礎体力を付けていただくための一例です。皆さんの会社の業種・業態によっては真っ先に学ばなくてはならない教育・研修があると思います。また、年1回だけでなく複数回の実施、短期集中で数日間開催など時間数としてのボリュームを多くしなければならない教育・研修もあるかもしれません。人事部門等教育・研修を企画して実施する部門はご苦労があると思います。教育・研修が多すぎて業務に支障があるという苦情が出ることもあるでしょう。しかし、会社の中長期的な成長と順調な業績の向上を担保するのは、人材採用や従業員個人のずば抜けた能力ではありません。リテラシーを持った従業員の皆さんです。会社の基礎体力を持った従業員が多ければ多いほど、又は全従業員がその基礎体力を持っていれば、その会社はどのような社内状況になっても社外からの悪い要因が襲ってきても、会社の中長期的な成長と順調な業績の向上を期待できるものと考えます。「全従業員の数=リテラシーを持った従業員の数」になるよう教育・研修を企画し実施していただくことをお勧めします。また経営者の皆さんも、そのような教育・研修を実施できるような経営方針と事業運営のご検討をお勧めします。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?