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管理系部門がIPO準備でやること Part.12 - 組織編成編 -

 「管理系部門がIPO準備でやること」について、数回に分けて説明・ご紹介しています。
 今回も特定の部門・部署ではなく、組織編成についてです。



組織編成の在り方

 組織編成は会社にとって大切です。会社の組織図を見ることで、その会社の今の状況がわかりますし、どのようなガバナンス体制を敷いているのかがわかります。また、その会社の経営方針を具現化しているのか。その会社が事業計画・中期計画で指している成長過程を着実に進んでいるのか。その会社の将来の状況もわかります。例として、その会社が新事業を立ち上げると同時にこれを担当する部門・部署を新設することがあります。ここからその部門・部署が部・本部というような大きな部門であれば、人員数はそれなりに割り振られていることが想像できますし、その部門独自に事業計画上の予算計画を作成していると想像できますので、大きな売上高を見込んでいるのか、大きな先行投資を計画しているのか。将来性が見込めると想像できます。これに対して課・室・プロジェクトチームなど比較的少数精鋭的な部署の場合は、人員数はそれなりに、その部署独自の予算計画は・・・いろいろと想像できます。それらの想像とその会社の事業計画・中期計画を見比べることで、その会社の成長過程や現状がわかるという感じです。ですから、組織編成は単にその会社の役割分担を決めているものではないことをご理解いただき、会社としても組織編成を十分に検討して構築することをお勧めします。

 さてこの組織編成ですが、在り方(*存在の仕方の意味)としては「このようにあるべき」という形は無いと考えます。部門・部署の名称(例:総務課・庶務課など)、業務分掌(例:経理部門が財務業務も行うなど)などは、皆さんの会社の規模(売上高、従業員数等)によってきめ細やかに配置するか個々の部門・部署が広範囲の業務を分掌し部門・部署の数は少ないなど、いろいろな形ができると思います。ただし、この会社の規模だけで組織編成を決めてしまうことも避けた方が良いでしょう。なぜなら前述のとおり、会社の組織図を見ることで、その会社の状況がわかりますし、どのようなガバナンス体制を敷いているのかもわかります。また会社の成長過程の進む具合もわかることがありますので、従来の固定観念にこだわらず、会社の経営方針と成長過程を具現化するための設計図の一部として有り様を検討していただくことをお勧めします。



【ポイント1】IPO準備期で戸惑う組織編成と人員配置

 IPO準備期を経験された皆さんは、この時期に組織と人員配置で大いに戸惑われたことと思います。例えば数年前のお話しになりますが、内部監査は他の部門・部署に属さない独立した組織でなくてはならない(独立性)ので「部門を設置しなければならない」と理解されていることが多いですが、東京証券取引所・新規上場ガイドブック(ここではグロース市場編を参照します)では次のように示していることをご存知でしょうか。

(5)内部監査について
 内部監査は、経営者自身が、会社財産の保全や適法かつ効率的な業務運営を担保するために行うものであり、基本的には、特定の部門の影響を受けない独立した部門により実施されることが望ましいと考えられます。しかし、会社の規模や業種・業態及び成長ステージ等によっては、独立した部門によることが必ずしも効率的でない場合も考えられますので、その場合においては、内部監査機能をどのように構築するのかについて、会社の実態にあわせて検討していただく必要があります。

(出典:東京証券取引所・新規上場ガイドブック(グロース市場編)101ページ)


 つまり、内部監査は他の部門・部署に属さない独立した組織である必要はありますが、部門として設置することは「望ましい」という形になります。それに「会社の規模や業種・業態及び成長ステージ等によっては、独立した部門によることが必ずしも効率的でない場合も考えられます」とありますが、これはいわゆる「自己監査」とならない仕組みを前提として会社の実態に合わせて内部監査機能を構築することを示しています。つまり、内部監査を設置するにあたっては、内部監査の目的を失うことが無いようにしつつ、絶対NGである「自己監査」を避けることが前提で会社の実態にあわせて構築することを求められています。これに最近では内部監査業務を外部委託する会社も増えています(参照:東京証券取引所・新規上場ガイドブック(グロース市場編)74ページ)。新規上場ガイドブックに記載がありますので、ぜひご参照ください。
 これらを論理解釈するか多少の拡大解釈するかは皆さんの会社のご判断となりますが、少なくとも数年前にあった内部監査を必ず部門(部や室等)として設置しなければならないということはなく、部門でなくても他の部門・部署に属さない独立性を保った内部監査人が存在することが必要であること、会社の規模や業種・業態及び成長ステージ等によって比較的柔軟に構築できるということがわかります。

 内部監査の部門としての設置を例に挙げましたが、IPO準備期においては他にも組織を見渡すと過去の固定概念や思い込みがあるために組織編成と人員配置に困ることがあると思います。過去の固定概念や思い込みが悪いこととは決して思いませんが、例えば経理部門も過去の固定概念や思い込みに捉われない柔軟な形について書かれている箇所があります(参照:東京証券取引所・新規上場ガイドブック(グロース市場編)103ページ)。新規上場ガイドブックにもあるとおり、考慮すべき大切なポイントは「会社の規模や業種・業態及び成長ステージ等」つまり皆さんの会社の現在の状況を踏まえて柔軟な考えを持つことです。IPO準備期は「上場」というマイルストーンに向かってひたすらに走り抜けることも必要ですが、いったん立ち止まる、時には振り返るという作業や過去の固定概念や思い込みに捉われない柔軟さも必要であることをご理解ください。



【ポイント2】組織編成で重要なのは牽制機能

 次に組織の形式のお話になりますが、組織編成で最も重要なポイントは牽制機能があるかどうかです。牽制機能を持つ部門については一般的に管理系部門と理解されていることが多いですが、必ずしも管理系部門だけとは限りません。それに「部門」と言っていますが、まずは部門である前提をいったん傍に置いて、牽制機能としての業務があるかどうかを確認することをお勧めします。これは業務プロセスにかかる内部統制(PLC)と企業統治(コーポレート・ガバナンス)に直結するお話となります。

 ここでお話しします牽制機能とは、

  1. 不正行為等を防ぐ機能(監視機能)

  2. 規程等ルールに則った業務を行うための機能(確認・チェック機能)

 牽制機能にはこの2点の要素が必要となりますが、この要素だけに着目して組織編成を検討すると、牽制機能はすべて管理系部門で行うようになってしまったり、牽制機能を持つ部門を別で設置するという考えに偏ってしまう傾向にあるようです。この2つの要素を純粋に捉えて、まずはこれらの要素を持つ業務の流れをどのようにするのかを検討することをお勧めします。これはPLCの観点で、例えば営業部門に営業と営業管理(又は営業事務。総じて「営業管理」といいます)それぞれの部署・担当者がいる場面を想像してください。営業管理は営業の業務のを補助する業務と説明されることが多いですが、IPOを目指す又はIPO準備期の会社の皆さんであればその説明と理解はいったん外した方が良いと思います。なぜなら、IPO準備の中で組織編成については特に牽制機能の有無や効果(どの程度の牽制力を有するか)が重要視されるからです。牽制機能は単なるチェック機能だけでなく、さらに強い権力をもって監視する機能だけでもありません。監視機能・チェック機能いずれにも偏ることなく両方の機能のバランスを取ることが必要です。ですから、両方の機能のバランスが保てる業務が有れば、別途部門を設置する必要も無いという考えになります。さきほどの営業と営業管理で見ると、通常の営業業務(顧客からの問合せ、見積〜受注)は営業の担当が担い、営業管理は営業業務の流れの要所で牽制機能を働かせるという業務プロセスを構築するというものです。ですから「営業管理は営業の業務のを補助する業務」という理解をいったん外し、営業管理には営業の牽制機能を担ってもらうことをお勧めします。こうすると、IPO準備にあたり新部門設置ラッシュや過度の人員採用に走ってしまうことを抑えることが可能です。ただし、業務分掌の再検討と見直しが必須となりますので、十分にご注意ください。
 また、営業管理が営業の牽制機能としての第1線、管理系部門が牽制機能の第2線、内部監査が牽制機能の第3線とそれぞれを捉えたら、内部監査人協会(The Institute of Internal Auditors)の3ラインモデルを形成することができますので、コーポレート・ガバナンスの観点で企業統制体制が構築できます。

 IPO準備及び上場会社において、組織編成で重要なのは牽制機能の有無、牽制機能の置き方(どのプロセスで牽制するか)、牽制機能のバランスが重要です。IPO準備に「最低限の準備」というものは存在しませんが、組織編成においては前述の2つの要素と皆さんの会社にとっての牽制機能について十分に検討して組織を編成することで、効果的かつ効率的なIPO準備ができると考えます。


 組織編成は、IPO準備の膨大な業務・作業の中でちょっと後回しになりがちなものかもしれません。しかし、会社の経営方針のもと、会社がいま直面している問題と今後進む方向についてを検討する中で、この組織編成はとても大切です。組織編成は会社の今を現すだけでなく今後進む方向をも現すものと考えるからです。組織編成を見るだけで将来性や企業価値が見ることができる会社は、とても素晴らしいと思います。



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