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- " 発生事実(不祥事) " が発生しない上場会社の内部監査 _具体事例から-

 上場会社で「発生事実(特に不祥事)はつきもの・・・」とお考えではありませんか?
そのお考えは、この記事をお読みいただき、払拭してください。
 ・発生事実が発生しない上場会社にするには、どのようにするのか?
 ・内部監査としての姿勢とは?
これについて説明します。
(約5分程度でお読みいただけます。)



上場会社の " 発生事実 " とは?

 会社では、いつ何時にも、いろいろな出来事が発生します。良いこともあれば、芳しく無いことも・・・。特に上場会社では、会社内で発生した事実の内容によっては、証券取引所の「開示基準」に則ってTDNET、会社のコーポレートサイト上においてリリース(開示)する義務があります。これを " 適時開示 " と言いますが、その出来事のすべてを開示するのではなく、開示基準に従って開示の要/不要、開示項目等が定められています。この開示基準は、各証券取引所の " 有価証券上場規程 " にそれぞれその定めがあります。

 前回の私の記事「上場会社の発生事実で内部監査は・・・」で、東京証券取引所の有価証券上場規程(以下「上場規程」と言います)の定めから説明を進めました。そのため今回の記事では、条文とその内容の説明は割愛しますが、会社がこのような " 発生事実 " に遭遇しないようにするために内部監査はどのような監査をすべきなのか、を説明します。



 適時開示では、その開示基準、開示項目、さらに「軽微基準」を設けて、投資家保護に資するかたちの情報を開示するよう、求められています。普段からTDNET(東京証券取引所の運営する適時開示情報伝達システム)をご覧の皆さんは、どのような開示がされているかはご存知だと思います。もしご覧になったことがない方がいらっしゃいましたら、このTDNETと、先般ご紹介しました証券取引等監視委員会が公開している「開示検査事例集」をご参照ください。


 いわゆる " 発生事実 " のうち不祥事にあたるような事案が発生した場合、TDNET上ではその内容の詳細は開示されません。題名もその不祥事のままの名目ではなく、大抵は「財務報告に係る内部統制の開示すべき重要な不備に関するお知らせ」の名目で開示されます。ここをみてみますと、何によって内部統制の「重要な不備」が発生したのか、がわかるようになっています。
 直近の開示事例ではこのようなものがあります。。


直近の開示事例 - 財務諸表に問題のあった事例 -

(*具体的な不備の内容は割愛します。)
以上のことから、当社の全社的な内部統制及び決算・財務報告プロセスに関する開示すべき重要な不備に該当すると判断し、内部統制が有効に機能していなかったと判断いたしました。


 上記の事例では、経理処理上、正しい勘定科目で処理すべき取引を、財務諸表上 " 誤ったかたち " の経理処理を行なったため、また、これが複数の事業期にまたがって行われている形跡があることを踏まえて、複数事業期分の決算報告を再確認し、その修正を加えて有価証券報告書を再作成し、再報告しなければならなくなった、というものです。

 もちろん、再報告するためには、会計監査人(監査法人)の財務諸表監査、監査役監査、内部監査など各種の監査を行わなくてはならず、さらに、このような状況下で監査法人による「無限定適正意見」の監査報告を受領して再報告するのは容易なことではありません。
 また、内容等によっては、証券取引所による " 上場廃止 " 、公正取引委員会による " 課徴金 " 、そのほか事件性があれば法律上の罰則や行政上の罰則が適用されます。このような事態になると、会社存亡の危機にもなりかねません。

 このようなことにならないよう、内部監査は常日頃からの監査業務とコンプライアンス啓蒙活動を怠ってはなりません。



発生事実が発生しない上場会社にするには

  " 発生事実 " が発生しない・・・少々言葉遣いがおかしい感じですが、端的には、不祥事が発生しない上場会社は、どのようなかたちを取られているでしょうか。

 これも、特に決まったかたちは無いのですが、例として挙げるとすると、次のようなかたちがあります。


  • 各部門の長(本部長、部長級)にしっかりとした " 内部統制 " に関する知識が備わっている。または少なくとも年1回程度社内研修を実施している。

  • 組織上、牽制する関係となっている部門/部署が設置されている。
    (例:営業部門内に、営業と営業管理があり、見積書、契約書類を営業管理が管理している。契約稟議のフローに管理部門、法務部門の承認フローが入っている。など。)

  • 営業資料(および契約書類)を、内部監査が適宜閲覧できるようにしている。など。


 これらをみますと、ポイントとしては、①社内に内部統制の啓蒙がなされていること。②牽制機能が存在すること。この2点で、要素としては " ガバナンス " の要素が濃いものです。これを意識した内部管理体制を構築していくことをお勧めします。逆に、これの1つでも無い場合は、書面監査をしっかりと実施しても、その書面自体の正確性、適合性等が疑わしいことがありますので、ご注意ください。

 また、上記の例の一つ目の中段に「少なくとも年1回程度社内研修を実施している」を挙げています。これは " コンプライアンス " の要素です。会社によって、ガバナンス、またはコンプライアンスのいずれの要素を濃くするか? または両立させるか? 判断が分かれることとなりますが、これを判断する基準となるのが「会社の経営方針(ポリシー)」となるのです。このポリシーこそが、 " 発生事実 " が発生しない上場会社の根幹となります。ぜひしっかりとしたポリシーを策定してください。



発生事実が発生しない上場会社の内部監査の姿勢

  " 発生事実 " が発生しない上場会社の内部監査の姿勢について、お話しします。先のとおり、発生事実が発生しない上場会社の社内ですでに、ガバナンスとコンプライアンスの両方の要素が備わっています。

 ここで重要課題として、さらに内部監査が重ねて、ガバナンスとコンプライアンスを畳み掛けるか、どうかです。いろいろなケースがありますが、例えば、業界的な商習慣として売上/支出する経費の改ざんがされやすい場合は、組織上の牽制機能に加えて内部監査も第二の牽制機能をもってチェックすることが考えられます。(*例としては、現金にて決済を行なっている、などがあります。)また、不正な取引が起こりにくい会社の場合は、内部監査は保証業務(アシュアランス業務)に徹することで、 " 静かな牽制 " を行うことも考えられます。それぞれのケースによって、内部監査機能の濃淡があるかと思います。

 この、内部監査機能の濃淡は、どのように決めるのでしょうか?
その判断基準は、やはり「会社の経営方針(ポリシー)」となります。
そのため内部監査は、その「会社の経営方針(ポリシー)」の内容と、その根底にある経営者および経営者層の考えも含めて把握し、これをよく理解する必要があります。

 例えば、経営方針に " 三方よし " (売り手よし、買い手よし、世間よし)を掲げている場合、内部監査はどのような姿勢で内部監査を実施しますか?


  • 売り手よし
    自社を含む売り手側のコンプライアンス、ガバナンス等社会的責任を念頭に置いた内部監査を実施する。

  • 買い手よし
    顧客満足を高めることを意識しすぎていないか。自社を含む売り手側のコンプライアンス、ガバナンス等社会的責任を念頭に置いた内部監査を実施する。並行して、買い手側からの要望、要求に対して、買い手側が安易に対応していないか、この要素についても内部監査を実施する。

  • 世間よし
    会社のCSR活動(Corporate Social Responsibility)について、経営方針および当期の事業計画と合致した実施状況となっているか。アシュアランス・アドバイザリー業務の両面から内部監査を実施する。


 上記に、この " 三方よし " を経営方針として掲げた経営者および経営者層の考えを踏まえて、内部監査機能の濃淡をつけていく、ということが考えられます。

 さて、この「内部監査機能の濃淡」ですが、これは " 手心を加える " という意味ではありません。ここで内部監査を実施する皆さんは、この濃淡に「内部監査の姿勢」を打ち出す必要があります。例としては、以下のようになります。


  1. 経営方針   : 三方よし

  2. 当期事業計画 : 売上高15%増・営業利益10%増(前年比)

  3. 上記1、2に対して内部監査の姿勢(監査方針) : 
    事業計画達成のため
     ①各部門が遂行している業務のコンプライアンス状況確認
     ②牽制機能の実効性確認
     ③新規事業または新サービス提供開始がある場合は、
      この提供開始にいたる経緯の手続きに関するコンプライアンス、
      ガバナンス状況確認


 上記の内容は、かなり簡単な記述になっておりますが、ここに濃淡を入れるとすると、


  • ①:営業部門については、販売に関する書類(契約書類ほか営業資料)の保管管理状況や、作成〜上長承認のフロー状況。これに、労務管理状況(時間外労働、ハラスメントなど)などについて、コンプライアンス状況を確認する。

  • ②:牽制機能となり得る部門間の牽制の実効性をガバナンス観点で確認する。

  • ③:新規事業または新サービス提供に当たっては、法令遵守の観点で提供開始に至る経緯を確認する必要がある。特に、その内容によっては許認可を必要とするものがある。また、当該新規事業または新サービスが、特許・商標登録等の権利侵害をしていないか、確認する必要がある。これを手続きとして事前に実施していること、など確認する。


 これらを監査する際に、どのような姿勢で臨むのか?これが「内部監査の姿勢」となります。中には、内部監査する皆さんの個性も、内部監査の姿勢に影響するかもしれませんが、それも重要な要素です。ただし、経営方針と経営者および経営者層の考えに反する/相容れないような要素を入れないように、ご注意ください。


 今回の記事では、掲げたテーマに対する明確な説明・回答ができていないかもしれません。それは、" 発生事実(不祥事) " が発生しない上場会社の内部監査が一番大事にすべきこととして以下を挙げます。


  • 会社の経営方針(ポリシー)を、内部監査が十分に把握し理解しているか?

  • 内部監査の姿勢が、会社の経営方針と経営者および経営者層の考えと合致しているか?


 これらが重要だからです。
 これには正解はありません。


 内部監査を業務として行う皆さんが、代表取締役を含む関係者の皆さんと十分に協議して検討を行い、内部監査の姿勢の上に立った監査方針を熟考して作成していくことで、隙間の無い内部監査をすることができ、その際に最適なアシュアランスと効果的なアドバイザリーを被監査部門に行うことで、各部門ひいては全社的に「 " 発生事実 " を発生させない」社風と意識を浸透させることができるのです。


 内部監査を業務として行う皆さん、ぜひしっかりとした「内部監査の姿勢」をもって、業務に臨んでください。



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