熱が歴史をつくる|「アニメージュとジブリ展」を見て
神戸大丸の「アニメージュとジブリ展」に行ってきた。
雑誌「アニメージュ」の創刊から80年代に焦点を当てた展覧会とのことだった。
ジブリ作品の展覧会という気持ちで行ったのだけれど、ジブリだけじゃなくガンダムやミンキーモモや、80年代頃の色んな作品の展示があり、ジブリ作品を含めた、当時のアニメへの熱を感じる展覧会だった。
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私がこの展示の中で印象的だったのは、絵コンテだ。
映画「ルパン三世 カリオストロの城」の冒頭で、ルパンと次元がフィアット500に乗って逃げるシーンの絵コンテと、映画「風の谷のナウシカ」の冒頭でオームから逃げるユパをナウシカが助けるシーンの絵コンテがあった。
ルパンの方で驚いたのは量だ。
フィアット500で逃げるシーンの絵コンテがあり、1コマ1コマ手書きでコマ割りなどの下書きが書いてあるのだが、3センチほどはありそうな紙の束が、動かすとようやく8秒らしい。
全て手書きで、宮崎駿さんのあの絵柄で、走り書きではあるけど雑ではない絵で、こだわりや細かい指示も書き込まれていて、それが3センチ集まってようやく8秒。
カリオストロの城は全部で100分ほどの映画みたいなので、紙の束でいうと何枚書いたんだろうか。
そしてアニメにするのであれば、もちろん絵コンテで終わりではなくて、そこからペン書きして、色塗って、動かしてとなるんだろう。
アニメのクリエーターにとってはごく当たり前の話なのかもしれないけど、当時パソコンもなんにもない状態で、何百枚という紙に手書きでこだわりを書き続けて、それを更に手を加えて形にして、1つのアニメができたんだと考えると、なんて手間でめんどくさい計り知れないことなんだと思った。
ナウシカの方は、絵コンテがほんとに映画そのままということに驚いた。
私が見た絵コンテでは、映画「風の谷のナウシカ」の冒頭、王蟲がでてきて、ナウシカの上半身のカットが写って、ナウシカの足のアップへ移動して、という、躍動感のある映画の映像そのままが、静止画の紙に書かれていて、絵コンテの時点で映像のカメラワーク全てが完成されてるのかとびっくりした。(これもアニメのクリエーターにとっては当たり前の話なのかも)
絵コンテって設計図で、かっこいい動きもカット割りも、絵コンテの時点でほぼほぼ完成なんだというのを知らなかった。
絵コンテってどうやって作ってるのかな、宮崎駿さんの頭の中に映像があって、それを紙に書き表しているのかな。それとも関係者での話し合いみたいなのがあったりして、最後に絵コンテになるんだろうか。
知らなかったのでおもしろかった。
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制作のための設定のメモ書きも面白かった。
例えば、カリオストロの城なら、車の車種はどれで、なぜその車にしたのかとか。(フィアット500は、関係者の大塚康生氏が実際に乗ってる車がそれだったからその車にした、と書いてあった)
ナウシカの銃は威嚇用なので、銃弾は多くは必要ない、という設定だとか。
ナウシカのオリジナル飛行機についての実施の記事では、以下私の意訳だか、「開口部があると実際には飛びにくいから本当はない方がいいんだ。だけど、開口部があるおかげで、ナウシカが空中で飛び乗れたでしょ?そういうシーンになった時に、ほらこういうのも作っといてよかったじゃんってなるんだ」という、架空の飛行機の架空の開口部を作るかどうかという検討だとか。
こういう世に出るか出ないかすらわからない細かい設定が無限にあるようだった。
(なんなら「風の谷のナウシカ」には原作として漫画があり、映画版ナウシカは、漫画版の最初の部分だけだ)
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ジブリ作品以外にも、ガンダムの原画やポスターも良かった。
私はガンダムをよく知らないけど、主人公とガンダムが宇宙をバックにした絵が単純にとても綺麗で、古い時代のものより新しい時代のものの方がブラッシュアップされてるとか、現代の方が素晴らしいということは、一概には言えないなと感じた。
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「アニメージュとジブリ展」は総じて、アニメへの熱があった。
雑誌『アニメージュ』を媒介として、まだアニメが今みたいに主流ではなかった頃、良いものをつくろう、面白いものを、こだわりぬいて、という、採算や合理性みたいなのにとらわれず、格好良いものをつくろう、そのためにはめんどくさかろうがなんだろうが意地でも泥臭く作業しよう、夢を見よう見せよう、みたいな、作品や仕事への情熱が感じられた。
こだわりの全てが気づかれなくても、裏の設定が世に出ようと出まいと、自分たちが良いと思うものを作りたい、そういう謎のエネルギーみたいな、人間の執念みたいなのが感じられると思った。
人の強い情熱が寄り集まって仕事をして、世に出た作品が面白いねと広まって、もっと見たい・自分も作りたいと思う人が増えて、ブームになって、一つの歴史を作っていくのかと、「アニメージュとジブリ展」を見て思った。
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最後に、もう一つ驚いたこと。
ナウシカの服は綿製だった!
ナウシカの住む場所はあんまり綿とか育たなさそうだし、革製かなとなんとなく思っていた。