
風流な歴史散歩でそぞろ歩き。永青文庫
目白通りから脇道に逸れれば、そこは閑静そのもの。
細川家ゆかりの地、東京都・目白台。
永青文庫を含む敷地一帯は、幕末期に肥後熊本の藩主だった細川家の下屋敷だったそう。
昭和初期に建てられた家政所(事務所)が今では美術館となり、細川家ゆかりの歴史資料や美術品を保管している。
細川忠興の佩刀「歌仙兼定」もここにある。
設立者の細川護立は美術に親しみ、書画や東洋美術などを積極的に蒐集してコレクションを築き上げた。


静かな門をくぐれば、頭上には枝を伸ばす桜と楓の樹。秋には柿が実っているのも見られる。笹や羊歯が左右に低く生い茂る砂利道を、一歩一歩踏みしめていく。

心安らぐ緑に溢れていながら、ここは武家らしい格調高さのある場所だ。
令和4年度早春展
『揃い踏み 細川の名刀たち —永青文庫の国宝登場—』
展示室
展示室は古い館の雰囲気そのもの。
随所に置かれたクラシカルな調度品は美しく、貴重な資料や美術品を眺めながら周回するのは楽しい。
手すりにもたれて間近で作品を見る。慣れるまでは順路を見失いがちだけれど、展示リストの番号順に回れば大丈夫だ。
4階の第1展示室は刀剣の間。鈍色のきらめきを単眼鏡片手にうっとりと眺める。
3階・2階は刀装具が中心。護立がどれほど刀剣を好きだったか、彼が刀剣について記したメモや手記も資料として展示されている。
まさに、細川家の宝物や資料を豊富に持っている館ならではの展覧会。
数々の刀剣にまつわる、護立のマニアックなエピソードも興味を引いた。
ミュージアムショップ
受付では、書籍やポストカードを購入できる。
マスキングテープもかわいい。
クレジットカードや電子マネー、コード決済などキャッシュレス対応が充実しているのも嬉しいところ。
ミュージアムカフェ
展示鑑賞を終えて、肥後細川庭園に繋がる丸いアーチをくぐり、谷底へと降りていく。足場がゴツゴツしているから、底の厚い靴が適している。あぁ、うっかりパンプスを履いて来なくてよかった。
ベンチに青年が腰掛けて本を読んでいた。この静けさはひとり静かに読書をするのに丁度いい。

やっと開けた場所に出ると、小川のせせらぎが涼やかに耳へ届く。
ししおどしのコンッと冴えた音が、凛とした静寂を際立たせる。
庭園内をしばらく歩いて、 「松聲閣(しょうせいかく)」に立ち寄ってみた。大正浪漫の魅力あふれる建物だ。時折、結婚式の前撮りをしている新郎新婦をよく見かける。
それぞれの部屋には肥後六花にちなんだ名前が付けられている。椿・芍薬・菖蒲・朝顔・菊・山茶花。雅を解するすべての人にこの館は優しい。


厳密には「永青文庫のミュージアムカフェ」ではないが、喫茶「椿」は鑑賞後にもぴったりの喫茶として利用できる。

お抹茶とお菓子を注文して、畳の小間でひとり待つ。
やがて細川ゆかりの献上菓子と一緒にお茶を持ってきた年配の男性スタッフは、にこにこしながら「ここへ来るのは初めてですか?」と尋ね、そうだと言うとお菓子の説明をしてくれた。朗らかな笑顔で「お写真もご自由にどうぞ」と、目尻に皺を寄せる。


薄い衣で花梨ジャムを挟んだ上品な和菓子。
庭園の四季は美しい。桜と新緑の季節が過ぎて夏が終われば、秋は紅葉。冬は松葉に雪が積もる。時折カワセミが見られるようで、大きな長いカメラを持った人たちが探し歩いている。


年間パスポート
1年中いつでも永青文庫を訪れるなら年間パスポート、もっと美術館を応援したい人は賛助会員がおすすめ。
せっかくなら、庭園の移ろいゆく季節を美術展とともに楽しもう。
おわりに
美術館で過ごすひとときを終えて目白通りへ戻れば、さっきまでの光景が風雅な幻だったかのように感じる。喧騒から離れた静けさを湛えるあの場所には、たしかに歴史の重みを感じた。
その感覚は握ったこともない刀のように、両の手にずっしりと沈み込む。
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永青文庫
〒112-0015 東京都文京区目白台1丁目1−1
TEL:03-3941-0850
公式ホームページ
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