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短編小説の森

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私が書いた短編小説たちの倉庫です。カテゴライズしたマガジンにある作品も、全てここに集めています。   ※五十音順に掲載
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記事一覧

会えないあなた [短編小説]

「もう、いったい何なのよ」  薄曇りの午後、秋風に吹かれながら気持ちよさそうに庭の草むし…

瑠璃
2年前
68

雨の日は相合傘で [短編小説]

 ずっと闇の中を走っていた電車が一気に地上へ出た。いつもならオレンジ色に染まった夕暮れの…

瑠璃
2年前
68

愛しき人 [短編小説]

 また誰かと勘違いしているのだろう。佐々木希美はお湯に濡らしたタオルで男性利用者の身体を…

瑠璃
1年前
66

イルカに似ている [短編小説]

 神無月が終わって、街は一気に冬の衣裳をまといはじめていた。わずかに目につく取り残された…

瑠璃
2年前
54

嘘だけはつかないで [短編小説]

 いつも通りの休日の朝が来て、和雄よりも先にベッドを抜け出しシャワーを浴びた。メイクが終…

瑠璃
2年前
61

海と瑠璃の境界 [短編小説]

 凪いでいた。あの日のように、とても穏やかな海だ。車内にも潮の香が満ちていて心地よい。五…

瑠璃
2年前
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開幕ベルを聞きながら [短編小説]

 二十代の最後を機に、友人たちの結婚ラッシュが起きていた。春先から六月にかけてが一度目のピーク。ジューンブライドだか何だか知らないけれど、梅雨時の雨の中を呼ばれる側の鬱陶しさも考えて欲しいものだ。  学生の頃やOL時代を通して、いつも人気者だった私は、たぶん式場にいる誰よりも多く結婚式に招待されている。みんな私を金持ちのお嬢様だと思っているのだろう。実際、そのように振る舞ってきたのだから仕方ないことだけれど、実際は関東のはずれにある老舗旅館の一人娘であるというだけのことだ。決

季節はずれの動物園 [短編小説]

 最後に動物園へ行ったのは、いつ頃のことだったろう。小学生の時だったろうか、それとも中学…

瑠璃
2年前
46

君の名を… [短編小説]

 中学生の頃、隣のクラスに原真紀というとても可愛いらしい女生徒がいた。同じクラスになった…

瑠璃
1年前
42

ゴーヤーの実がはじけたら [短編小説]

 どこかで目覚まし時計が鳴っていた。美鈴が眠っている枕元で鳴っているのではない。どこで鳴…

瑠璃
1年前
58

桜前線北上中 [短編小説]

 今年も近所の公園の桜が咲いた。この街では、ちょっとしたお花見の名所になっている。千鳥ヶ…

瑠璃
2年前
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さよならの線香花火 [短編小説]

 国産のものは、わずか三ヶ所でしか作られていないらしい。線香花火のことだ。今現在、巷で売…

瑠璃
2年前
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残心 [短編小説]

 開け放たれた出入り口から、小さな中庭が見えていた。朝だというのに、もう夏の陽射しがぎら…

瑠璃
2年前
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幸せ・ホルモン・オムライス [短編小説]

 朝が来ていた。タイマーの切れたエアコンからではなく、少し開いている窓から涼しい風が吹き込んでいる。つい最近まで熱帯夜に辟易していたのが嘘のような心地よい風だった。  昨夜はちゃんと閉めたはずなのにと、目覚めたばかりの頭が思考の道筋で立ち往生していている。 「温子、今日は早いんじゃなかったの?」  隣の部屋とを隔てるシルクカーテンの向こうから、ゴソゴソと忙しなく立ち働いている母の声がした。きっと床を拭き掃除しているのだ。不規則な地響きは、最近すっかり体重の重くなった母の悪戦苦