西行と反魂の絵師① [連載時代小説]
穏やかな春の風が枕もとを吹き抜けていく。草庵の濡れ縁に面した障子戸は開かれ、軒先にはもうすぐ満開を迎えるであろう桜の老木が枝を揺らしていた。重い病の床にあった西行の脳裏には、通り過ぎた過去の光景が春霞のように浮かんでは消えていく。
この世に生を受けて七十二年。かつては北面の武士として武勇に秀で、和歌にも通じ、華やかな未来が約束されていた。それにもかかわらず二十二歳の若さで出家したのは、皇位をめぐる政争に失望したからでもあり、親友の不意の死に世の無常を感じたからでもある。以