「下剋上球児(第9話)」 こういうチームが甲子園に出ることに意味があるという論理
ドラマとしてはこれが決勝で最終回であってもいい展開であった。そして、1時間の中で濃密な一試合を見せる脚本はなかなかお見事。そして、最後に、松平健に、高校野球のあり方の理想みたいなものが語られる。「越山高校のようなチームが勝って甲子園にいくことに意味がる」みたいな。つまり、優秀な選手を全国から集め、論理やデータでセミプロのように勝ち上がるチームが多くなる中で、泥臭く、無心に魂の力だけで勝ち上がっていくチームが出られる甲子園であるべきだし、それは可能だと訴えてくるものをいかに魅せるか?というのがこのドラマの軸であろう。その言いたいことをこの試合に見事に埋め込んできた感じ。なかなかお見事ではあるが、最終回前に「甲子園に行く金がない」という事実をぶっ込んできたのはこのドラマらしくもある。甲子園が綺麗事では済まないというところもちゃんと見せていくところが新しくもある。
試合は、簡単に先制されるも、先発根室が好投する展開。そして、南雲監督の選手に向けた罵声で、選手たちが奮起して同点、スクイズで逆転にも至るが、途中の守備で勢い余って守備で激突。切込隊長の久我原が病院に。そして逆転され、空気を変えるために、キャプテン椿谷を入れる。そして、最大のピンチで根室に、投球をオーバースローからサイドスローに変えさせるという奇策。これが見事にあたり、1点差で9回裏。2アウトから走者が2人でて、代打、犬塚。投手としてフォーカスがかかっていた犬塚をここで打のヒーローに祭り上げる泥臭さも高校野球らしいのだが、今は大谷翔平が世界で認められた時代。このシーンを見て、「犬塚、二刀流か!」と思った人も多いだろう。バットを出すシーンから、決勝打を打つまでの演出、格好良かったです。とにかくも、今回は試合を生で見ているような味わいの演出でおみごと。
そして、Tシャツがなかなか届かないで、焼肉屋のものと間違えて持ってくるとかいう話で、自然に街の空気感の変化を描くのも面白く。黒木華が病院にいるのは、そこでの風景も感動的に伝えられるためとも思える。しかし、久ヶ原、絶対安静と言われながら、病院のベッドから起きてきてテレビに釘付けのシーンは熱かった。なかなか見ている方のテンションを上げる細工はうまかった。
ただ、今風に、井川遥が作ったコンテンツをネットに流して市民を集める見せ方は今ひとつわかりにくかった。「パリピ孔明」でも思ったが、ネットでの瞬間の集客をドラマの中で見せるのは難しいと思う。まだまだ、方法論が固まっていないということもあるが、これからのドラマ演出での課題ではある。
とにかくも、次回は最終回。基本は、この甲子園切符を手に入れるところまででドラマは終わる感じなのだろうが、その後のロケを行ったらしい甲子園をどう描くかは楽しみなところ。しかし、鈴木亮平の監督姿は格好いい。やはり、偽教師問題など要らなかったのではないか?と思いますよね。