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「リスペクト」人生とは自分自身と周囲へのリスペクトで高揚すると感じさせる力強さ
ラストの「アメージング・グレイス」がこの映画の意味合いを全て表している感じ。久々に映画に大きな力をいただいた気がした。上映時間146分、ほぼ画面に集中できた。音楽シーンは当たり前の如く迫力を持ち、これが監督デビューだというリーズル・トミーの演出はとても細かい部分まで美しくまとまっていた。
主人公のアレサ・フランクリンが牧師の子だったというところは、彼女自身に大きな影響をもたらしているだろうし、キング牧師の時代にその公民権運動に関わっているということも大きなアイコンだったりする。最初の方でジュディ・ガーランドの黒人版だというようなセリフがあるが、ジュディが今、LGBTのアイコンとしての存在があるように、アレサも、さまざまな差別の中で生きるマイノリティーに対してずっとアイコンでいるような歌手なのだろう。思い返せば、映画「ジュディ」でも酒に溺れステージで倒れるところがあったが、重なる部分が多い二人のような気がする。でも、アネサは皆にリスペクトされるスターとして生涯を追われたわけで、それはこの映画を安心して見られるところである。クレジットと並行して彼女の晩年の姿が出てくるが、本当に大きな人だったことがこれを観ただけでよくわかる。
実際のところ、洋楽音痴に近い私は、アレサ・フランクリンという名前は聞いたことがあるものの、その曲に触れたことはなかった。そういう私でも、引き込まれる映画です。音楽映画を好きな方、差別や偏見に立ち向かう映画が好きな方にはオススメです。
とは言っても、10歳で妊娠してしまうようなとんでもない少女だったり、その後も男に対してはあまりついていない人生。そして、映画の中で「虫が出た」と言われている性格上の問題もあったりする。だが、こういう性格的な問題を周囲が彼女のトラウマに追い込んでしまうのは本当に辛い。いじめと呼ばれる行為もこういうことが絡んでいることが大きい。そう、彼女に対する周囲からの責めに対し、観ながらそんなものを敏感に感じる方もいるだろう。もちろん、主演のジェニファー・ハドソンの演技のうまさもあるのだが、演出がとても細かいところまで届いているところが大きい気がする。
伝説のヒット曲を作りに行くところで、一瞬、綿を摘む黒人の姿を差し込んだり、コンサートの後のファンの言葉の入れ方、そして売れない時に尊敬する先輩に強い言葉をかけられるところなど、さまざまな印象的なカットの組み込みの素晴らしさがこの映画全体を大きく強く感じるものにさせている。
そして、先にも触れたが、主演のジェニファー・ハドソンが素晴らしい。「ドリームガールズ」でも圧巻の演技だったが、それに比べると、一回りも二回りも大きく成長していることがわかる。歌を歌うシーンと演技の場面が違和感なくシンクロしているのですよね。
「リスペクト」というタイトルは、彼女のヒット曲のタイトルで、男たちや周囲の人たちに、もっと敬意を持ってほしい的な歌なのだが、その向こうに神へのリスペクトもあるのだろう。そう、昨今は同じ人種同士でも敬意にかける行為が起こったり、そこから起因する事件も多い。そういう時代に、彼女の生涯を描いた映画が公開されることは多くの意味を含んでいる気もした。
そう、これからの時代、家族、周囲の人々をリスペクトして暮らしていくことはすごく大事なことだと思う。そして、自分自身をリスペクトすることも、その上で存在が明確ではない大きな力(神)に対しリスペクトすることは絶対的に必要なことだと思ったりする。この映画はそういう映画です。