「下剋上球児(第6話)」さまざまな過去からのリセットのための1勝という描き方
ラスト、小日向文世にも大きな決断が待っているということがわかる。人の人生など思い通りにならぬことの方が多いのかもしれないが、強い意志があれば、希望は叶う。それが、人が作るドラマや映画が伝え続けてきたことだろう。そう、失望、失敗からの起死回生のドラマは人が作るエンターテインメントの基本である。そんなことを考えさせた今回であった。
鈴木亮平の事件発覚から一年。野球部生徒らが始めた嘆願書の署名の力があったかどうかわからぬが、鈴木の不起訴処分が決まる。今回もそのことを言いにきた伊勢志摩の演技が印象的ではあったが、気持ち的には法廷シーンも少し見たかった感じもある。まあ、主軸の話ではないのだからこのくらいでいいのだろう。
そして、黒木華が監督になり、松平健の高校から中古のバッティングマシンをもらったり、いろんなことがあった中で生徒たちはまた夏を迎え初戦に立ち向かうまでの話。相手の選手が黒木華が何があって前の高校を辞めたか知ってるかと、選手たちを揺さぶる。黒木は、前の高校で生徒と淫行したという噂をながされて辞めていたのだ。そう、黒木もまた、追い詰められてここの場所にいるということがわかる。彼女が野球部で選手に向き合う姿は実に格好いい。彼女、本当にこういう役をやらせたらうまいというか、味のある演技をするし、そのどっしりとした存在感が良いですよね。ラスト、試合に勝って、自分は何も悪いことをしていないと自分でいい、相手チームに挨拶する姿はカッケーの一言であった。
また、その間の選手の気持ちの変化や、野球に対する考え方の変化、また試合中に相手の投手の癖を読み取る感じとか、細かい成長をドラマの中で無駄なく詰め込んでこの初戦をドラマとして濃厚にする脚本はとても優れていると感じた。
そう、その選手たちの話の中に、うまく鈴木の就職活動や、東京に行って井川遥の元夫に会うところとか、選手たちを励ます姿など、これも無駄なく描いていっている部分も何か奇跡的なうまい流れが作られていた。鈴木をまた監督にするということは、選手だけが考えて動いていることだ。まだ、その心が街の大きなうねりにはなっていない。犯罪をすれば一気にその噂が広がり、再就職も難しい街に居着いて自分に向き合う鈴木という人間の大きさというか、在り方を視聴者に見せたいがために、この偽教師問題をドラマに埋め込んで行ったのは確かで、そのことがうまく視聴者の心に届く感じになってきたのがこの回ということだ。
ここから、明確に下剋上が始まるのがわかる。それは、鈴木と井川がもう一度笑顔で向き合えたところから始まるということだろう。あと、ドラマは4回だろうか?そこにかなりの濃厚な感動編があることは予想できること。我々はただそれを期待するだけ。
奇しくも、この日TBSは侍ジャパンの日韓戦を中継していた。ゲームは劇的なサヨナラで日本の優勝。それに続いて一時間遅れで始まったドラマだったが、そのリアルゲームに負けないようなドラマチックな回であった。