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「かそけきサンカヨウ」今泉力哉的な会話の間を楽しむ作品?

今泉力哉監督、今年3本目の公開作品。窪美澄原作の映画化。テーマは、現代の家族のあり方、親子関係、恋愛という至ってシンプルなところにある。そして、ドラマチックな話は存在しない、情景の中に人々を配して語らせていくような映画である。ある意味、今泉映画が好きな人には好まれる空気感だと思う。だが、映画としたら少しメッセージ性が薄いと感じる人も多いだろう。ある意味、自主映画的な映画だが、確実にメジャーな映画であり、今泉監督の力量がよくわかる作品。

主役はテレビ「ドラゴン桜」でも同級生として共演した志田彩良と鈴鹿央士。そっちとはかなり違う環境の役だが、なかなか良い演技をしている。他の若い役者たちも印象的。こういう無名の役者を動かすことでは、今泉監督は本当に演出力を発揮する感じがする。この若者たちの中からも将来的に有名になる子たちもいるのだろう。

そして、まず、このタイトルである。ほとんどの人がなんのことかわからないだろう。それを見て、映画を見たくなるかどうかはよくわからないが、言葉が頭に入らない分、損をしてることは確かだろう。私も全くわからなかった。そして調べると、「かそけき」とは、今にも消えてしまいそうなほど、薄い、淡い、あるいは仄かな様子を表す語。そう言われればそんな感じはする。「サンカヨウ」は水に触れると花びらが透明になる珍しい花のこと。こちらは、そういうものがあることは知っていたが、名前は知らなかった。やはり、メジャーの映画のタイトルとしては難しいですよね。

ここで出てくる家族は、皆まともな姿ではない。志田の家は、志田の小さい時に母が出ていき、父親の母親がわりみたいな生活をしていたところに、父、井浦新の後妻として菊池亜希子が子供を連れてやってくる。新しい家族が作られるのだ。鈴鹿の家は、父親が海外で仕事をしていて家にいない。そして、母と父親の母親と一緒に住んでいる。そして、鈴鹿は心臓に病気を持っているという設定。二人とも、普通ではないが、そういうのが今風にも見える。そう、昔のような勝手気ままな青春像を描いてもしっくりいかないということだろう。

そんな中で、映画としては、志田と井浦の父娘の会話のシーンがなかなか印象的。長いフィックスなシーンなのだが、実にそれが有機的に感じられたりするし、彼らの親子としての空気感みたいなものをしっかり出せている。鈴鹿と母親の西田尚美との会話のシーンもそうだ。こういうシーンは今泉監督だから撮れるという感じ。こういう部分にすごく納得してしまった。

映画全体としては、監督がテーマをどこにフォーカスを当てたいのかが今ひとつわかりにくいところもあり、完成度という部分ではちょっと弱い感じがした。役者が皆よく見えるのは、演出力なのだが、彼らを包み込む空気がもう一つハレーションを起こしていないのが残念と言ったところ。

この間、アマプラで昨年の今泉映画で私が最も好きな「mellow」を見返したのだが、こちらも、主人公とそれを取り巻く人々の日常の映画なのだが、それなりに恋愛というフォーカスが明確になっていたから完成度が高く感じだのだろうと思う。ここにも、志田が出てくるのだが、これは本作と比べると、女優としての成長が明確にわかる。これからも注目の女優さんだし、もっと綺麗になっていく人だと思ったりもする。

結論を言えば、毎年3作品くらい作り続けられる今泉映画のレベルがそれなりに持続できているところは、すごいと思う。そして、自分の映画の形が明確になってきたということなのだろうと思う。次回作に期待します。


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