![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/171163494/rectangle_large_type_2_08ffb41a8884cb9be219e4f86630d718.png?width=1200)
「サンセット・サンライズ」"おもいでのアルバム"と"残酷な天使のテーゼ"が耳に残り、思い出すほど刹那と慟哭の間にいる映画
楡周平原作、宮藤官九郎脚本、岸善幸監督の映画。クドカン的には、「あまちゃん」「季節のない街」に続く震災後の東北を描く作品。そして、笑いの部分も多くあるが、一番強烈に震災の意味みたいなものを感じる映画ではあった。そして、そんな映画の鳥羽口は、ダイアモンドプリンセスのニュースが流れるコロナ禍の入口だ。ここで描かれる話は、皆が失われた30年という中で、人々の心がどうであったかというようなところであり、ある意味、今の日本人が見るべき映画だ。傑作映画は時代を越えるというが、多分、20年後の若者たちがこの映画を見てもピンとこないだろう。そういう映画であり、2025年初頭の傑作と言っていい。(この後、ネタバレあり、見る予定の人、いや、皆に見てほしい映画なので、この先は見てから読んでほしい)
まずはコロナ禍の中でも岩手の海辺の街での空き家問題から始まる。そして、住んでない持ち家の一軒家(4LDK)を家賃6万円で住んでほしいとネットに出す井上真央。それを見て早朝にLINEの連打をして、すぐにそこに来てしまう菅田将暉。まあ、こういう素早さが映画のスピード感にもなっている。そして、釣り好きのサラリーマンは、まずは二週間外に出るなと言われる。まあ、そんなことがあったのは確かだし、この村のように、首都圏の人はみんなコロナの菌を持っていると思っていたのは当然だ。ここで、日本はまんまと騙されたということだ。
それはともかく、このドラマ、最初の方は美味しそうな魚がいっぱい出てくる。この正月は「グランメゾン・パリ」「劇映画 孤独なグルメ」に続いて3本目のグルメ映画と言っても過言ではない。とにかく、見終わった後に美味しい刺身が食べたくなる映画だし、ここで出てくる竹原ピストルの店に井之頭五郎を連れてきてご馳走したいような流れである。そして、令和の「釣りバカ日記」でもある。西田敏行さんも出演させてほしかったな・・。
それはともかく、菅田将暉は思ったより早く町の人と馴染んでいく。そこもスピード感があってとても良い。そして、最初に仲良くなったのが白川和子演じるお婆さん。彼女に寄り添い、彼女のパチンコ通いを手伝ったりしているが、彼女はパチンコ屋で「残酷な天使のテーゼ」が流れる中で朽ちていく。この曲選定はすごいと思った。そして、白川和子、怪演。もう、こういう年寄りの役がきちんとできる女優さんが少ないだけに貴重。半世紀前、彼女自身がロマンポルノに出た当時は、こんなに長く女優をやるとも思っていなかっただろう。そこにも人生の奇跡を感じたりする。
そう、この話は人生の奇跡の話なのだ。その白川の死で「空き家問題」に対して菅田の会社の社長の小日向文世が興味を持つ。大手の企業がこういう問題を俯瞰して大きなマーケットにしたいと思う。まあ、確かに、仕事はリモート可能になったし、都会は誰が住むのかわからない高層ビル建築の嵐で住んでいてもせちがない。そして、未来の希望はそこには持てない。だから、田舎暮らしがしたい人は少なくないと思う。
そして、菅田はこの環境に憧れてここに来た。そう、好きであれば動きたい人は多くいる。そんな中で、震災の話が後半でやっと出てくる。そして、井上は夫と子供2人をそれで亡くしていた未亡人ということがわかる。それがわかってくる残された吸い殻みたいな見せ方はすごく刹那い。
そして、菅田がそんな井上に惹かれていることは確かで、それを強く推し進めようとする池脇千鶴がなかなかの怪演。というか、身体が1.5倍に膨らんだせいですごく威圧感がある。この人、このままこういうおばさんからお婆さんまで長く演じる人になるのだろうなと私は思った。期待しています。
そう、役者を次々と褒めたが、傍役がみんなすごくいい。居酒屋の店主の竹原ピストル、そしてその友人の金髪の三宅健、そして、ビートきよしや中村雅俊なども、なかなか見終わった後に別れるのが刹那い感じがいい。
あと、最後の芋煮会で、熊がしめじを鍋に足してくれるみたいなクドカンらしい話が邪魔でなく生きているのも良いですよね。
とにかく、日本人は震災とコロナ禍で何かを忘れてしまった感じがするんですよ。それは、好きであることにわがままになることだと思うのですよ。そして、コロナのディスタンスみたいな話の中で、謙虚さみたいなものの考え方を間違えて捉えてしまった人が多いのを感じる私だったりします。とにかく、自分の好きなことをやるのが一番で、それで面白いのが人生なのよ。
で、ラストシーン前、菅田の気持ちを整理しきれずにいる井上真央や他の街の人々に被って「おもいでのアルバム」が流れる。これ、最高でした!そして一年後、再度戻ってくる菅田の前に現れた井上の美しいこと。そのまま、抱擁シーンになるのですが、ここ何度も見たいシーンになってます。
そして、彼らは結婚もしないし、籍がどうこうの話よりも、楽しく好きな人と暮らしたいということだろう。そう、世の中、夫婦別姓問題などもありますが、そんなに固く考えないでいいと私は思います。好きなように生きればいいんですよ。
この映画を見ると、いろんな不安やもどかしさが吹っ飛ぶ感じです。ある意味、クドカンの震災への思いはここに一つ結実したような感じ。本当にとてもいい映画です。多くの皆さんに見てほしいと思いました。