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「いちげき」幕末の青春譜を宮藤官九郎が勢いよく軽やかに描く!
毎年、新春スペシャル的なドラマがそれなりに楽しみだったりする。とはいえ、今年は三が日にそのようなものがほとんどなかった。連続ドラマの数が増える一方で単発のドラマが減る傾向はさらに進むのだろう。2時間ドラマ隆盛や3時間ドラマなどというものがあった時期が懐かしくもなる。
NHKも新年には、それなりに金のかかった時代劇などを流すことが多かったが、今年はこのドラマ。松本次郎原作のコミックのドラマ化。脚本、宮藤官九郎ということでそれなりに期待したが、まあ、期待通りに面白かった。一昔前の宮藤脚本は独りよがり的なものを多々感じたが、昨今はとても完成度が高い気がする。いわゆる全体の構成力がすごくしっかりしてきた感じがする。朝ドラや大河などを任されて彼自身の腕が本格化してきているのだろう。このドラマを見たら、もう一度「大河ドラマ」に挑戦をしてほしいと思った次第である。
時は幕末。いや、もう大政奉還の後、薩摩藩が御用盗なるゲリラを仕掛ける中、それに対抗すべく幕府が農民をゲリラに雇うというお話。ある意味、歴史の裏でこういうものは大小いろんなものが存在した気がする幕末であるからして面白い。そして、そのゲリラ要請をするのが元新撰組というのも面白い。しかし、半年で侍にするというプログラムを一週間で行うとは、侍をそんなに簡単にしていいのかね?まあ、勝海舟の役が尾美としのりというユルユル感のドラマですからね。こういうドラマがあると、戦争が起きて徴収しても、一週間で戦闘隊員はできるという感じになりかねないし、そうやってまた日本は失敗をする気もする。ここでは、野良仕事をしていた男たちは力が強くゲリラとしては役に立っているが・・。
主役は染谷将太。汚い役がなかなか似合っていて、人間として「お前は誰だ」的な風貌がまた良い。最初に彼が人を斬るシーンとか、松田龍平に対面して人を斬ることを教わるシーンとか、とても印象的だった。
それに比較されるように町田啓太がいるのだろうが、こちらは「テッパチ!」と似たような演技で、染谷の対比になるような演技になっていなくて残念。というか、宮藤脚本もこちらはあまり書き込んでいない感じに見えた。
面白いのが、無理やり一撃隊に入る塚地武雅。勘だけはいいという、エスパー的な役割。そして、訓練で一人だけ姿勢がいいというのも面白かったが、最近の塚地さん、さらに芝居で自分をアピールしていく技を学んでいるようですね。今は、バイプレイヤーとしての逸材になりつつあるが、もう裸の大将はやらんのか?昔なら新春スペシャルとかでそれもあっただろうに・・。
あとは、出てきた時から前に出てくる伊藤沙莉。彼女もいろんな仕事を経験し、自信を持って画面の中に存在してますよね。飯炊女から一撃隊の一員になるという役、見事にこなしていました。そして、なんか少し綺麗になりましたか?彼女の今年のお仕事も楽しみです。
そして、ヒロインというわけでなのないが、西野七瀬。娼婦の役が結構艶かしい、というか、人気のある娼婦にはそんなに色気はいらないわけで、男好きする感じがよく出ていた。彼女、雰囲気的にはラウンジのホステスやってもナンバーワンになりそうな雰囲気は持っている。そして、芝居もやっと上手くなってきてるんですよね。昨年公開の「恋は光」も良かったが、彼女の今年にも期待は高まります。こういう娼婦の役、映画で演じてほしい気はします。
ドラマ的には原作を90分にまとめたのだろうから、かなり駆け足だったのが少し残念だが、最後に御用盗の親分の杉本哲太と染谷が対峙して、杉本の首が飛ぶシーンを印象的に書く宮藤脚本は面白いと思いました。映画化の話もあるとかないとか?是非、見てみたい気はする。
ラスト、染谷が自分に首をたれる農民に、刀を差し出す。そう、ある意味、人殺しを断罪するような終わり方もまた良かった。
宮藤さん、今年はまた連ドラ書いてください!