「Silent(第8話)」優しさと偽善の境界で戸惑う人々
多分、ドラマはあと、2回か3回でラストだろうが、展開が勢いをつけないどころか、なかなかラブストーリーらしく、当事者の昂る心みたいなものを描こうとはしない。今回は時間が少し拡大されたバージョンであったが、時間の流れ方は、ずーっと変わらずにゆっくりと、人の心の微妙な振動を描き続ける。それぞれの位置にある人々の、その位置での振動を。そう、そこに抑揚をつけないことで、それは刹那さに変換させられるわけだ。本当に、なんか一つの笑顔や、一つの言葉がとても重要に感じられる世界。いや、リアルな世界は本当は、そういう世界でなければいけないのではないかと感じさせられるというのが本当のところだろう。
今回は、最初の方で、奈々と手話教室の先生の春尾の昔の出会いを描く。春尾って名前みたいだけど、苗字なんですね。春尾将輝が役名。まあ、そんな役名よりも風間俊介という方がしっくりくるがw。出会いはボランティアの講義のタイピングを春尾がやっていたことから。その最初の奈々の笑顔(上の写真)がとても良かった。夏帆という女優さんは、経験値としてかなりやさぐれた役もこなす人だが、こういう少女の笑顔が未だにできることは、本当にすごい。この役でも、演技の抑揚に感心させられる。
ここで、ノートに毎回「ありがとう」と書くことを春尾に問われ、「ありがとう」は使い回ししない的なことを言う。そう、この言葉は自分が教えた手話を使い回しされたと言って紬に当たった時のことを想起させるセリフだ。そして、春尾にもまた、同じようなことで彼を偽善者呼ばわりして別れた過去があった。そんな、自分の過去に嫌気がさしたからか、8年ぶりにあった春尾に奈々は「紬と想はうまくいくかな?」と聞く。それぞれの登場人物を本当に丁寧に優しく扱っていく脚本である。
そして、そこから、2人の主人公の恋の話に集中していくのかと思ったら、今度は家族との心の触れ合いの方向に持っていく。ゆっくり、ゆっくり、外堀を固めながら恋を成就させる脚本。ある意味、ドラマチックではないのだが、静かな流れな中でこれでいいのだと思わせるところが、本当に新しい。
紬のお母さん役は森口瑤子。脚本の生方さんが、目標とする坂元裕二氏の奥様である。これは、そう言うところからのキャスティングなのだろうか?それは、どうでもいいことだが、川口春奈のお母さん役という点ではなかなか嵌った感じであった。そして、帰りにいっぱいの食料を持って帰らせるお母さんの姿は、昔も今も変わらぬ風景。多分、脚本家のお母さんもこんな感じなのではないだろうかと思わせる。家族の描き方がいたって優しいからだ・・・。
そして、今回の最後は、想が実家に帰り、母の篠原涼子に挨拶するところ。来週も過去に描かれていない心のピース的なものが出てくるようだ。そういうまだ描いてない過去が全て描かれて、現在の心がどのように変化していって、未来がどう美しく見えてくるのか?ラストに向かって、まだまだ刹那さは続くのだろうが、楽しみでしかない。