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2022年新作映画レビュー

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2022年に見た新作映画のレビューです。
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2022年11月の記事一覧

「ある男」戸籍を変えることで、人は違う人生を歩めるのか?

ラスト、一気に洒落ぽい世界に観客を放り込む。そして、最初にも出てくる、顔の映らない鏡の画が出てくる。これは、ある教訓の寓話のようなものなのだろう。そして、自分の人生を現在あまり素敵に感じていない人は、この映画を見てどう感じるか?という話である。 平野啓一郎原作の映画化。彼の文体のように、監督、石川慶は坦々と映像を紡ぎ重ねて行く。実際、形態としてはサスペンスの部類に入るのだとは思うが、主人公の父親が罪を犯しているだけで、出てくる主要人物はいたってまともな良識人である。だから、

「土を喰らう十二ヵ月」季節と食と生き死にと失恋と・・・。

ラスト近く、沢田研二に一緒に住もうと言われた松たか子は、「私結婚するの」と言って、食事もせずに去っていく。これは、沢田がフラれたということなのだろう。松がとてもワクワクした感じで車を沢田の家に運転するところから始まるこの映画は、12ヶ月経って、いや、実質は10ヶ月くらいか、その間にフラれてしまうという恋愛映画と考えるのが正しいのかもしれない。そう、日常には、こんな感じで小さなドラマが散らばっている。そして、それを彩るのは、食う寝る遊ぶでしかない。そんな映画である。 原案、水

「すずめの戸締り」災害と神とパラレルワールドで、何が描きたいのかがボヤッとしてますよね

新海誠の最高傑作なるキャッチを見たが、正直言って。あまり目新しさみたいのは感じなかった。新海誠が監督したとは関係なく、口コミで客が動く感じでもない。もちろん、ネット内の評価は好意的なものが多い。だいたい、2週間前からシネコンの半分くらいのスクリーンを占拠して上映してるわけで、それだけで凄いもの見えてくるわけで、そういうものに流されるのは日本人的な感じで私は好きではない。 「君の名は。」「天気の子」「すずめの戸締り」と続くこの3本を、観てない人にどんな映画かと尋ねられたら、私

「あちらにいる鬼」寺島しのぶ、豊川悦司、広末涼子、役者で見せる昭和の男女の混沌

荒井晴彦脚本、廣木隆一監督で、井上荒野原作の井上光晴と瀬戸内寂聴の不倫関係を描いた小説を映画化する。なかなかゾクゾクするものがあるのと、すぐにシネコンのスクリーン減らされそうな予感から急いで見にいく。なかなか大人の映画に仕上がっていたが、荒井晴彦の粘着質みたいなものはあまり感じないわかりやすい映画であり、役者たちの芝居で映画の品格みたいなものができている良き映画であった。 しかし、これを作った廣木隆一監督、今年、この後に「母性」と「月の満ち欠け」という二作品が公開される。パ

「RRR」インド映画の底力的なものを堪能できる3時間

3時間ある映画なので、時間が合わないのと、体調も合わせなくてはいけないと思い、やっと観ることができた。インド映画史上最高の製作費7200万ドル(約97億円)をかけたというキャッチ。インド映画のお金に関する感覚はよくわからないが、プロレスとサーカスとミュージカルを一緒に見たような満腹感は流石のインド映画であった。そして、バックグランドにイギリス支配下からの解放の話もあるわけで、国威高揚的なものも強く感じさせる映画だ。 舞台は1920年。この間見た「アムステルダム」と似た時期の

「天間荘の三姉妹」死後の世界のファンタジー映画だが、今ひとつ世界観が浅い印象

髙橋ツトム原作のコミックを北村龍平監督が映画化。私的には内容はよくわからぬままに、のんの演技が見たくて観に行った感じ。話の舞台は「三瀬」と呼ばれる生と死の間の世界。いわゆる三途の川の事を三瀬の川とも言うらしい。そこに送られてきた、のんが今生に戻るまでの話。つまり、臨死体験をする話である。 この後は色々とネタバレになるので、これから観る方はお気をつけください。まずは、映画の尺が150分もある映画なのだが、120分で十分まとめられる題材の気がするので、脚本の引き算が全くできてな

「チケット・トゥ・パラダイス」こういう小気味良いアメリカンコメディがもっとあっていい。

なかなか、ラストの着地点で、タイトルの意味がシンクロして洒落た映画だった。このような、軽いタッチのハリウッドのコメディというのは昔はもっと公開されていた気はする。最近、洋画全般が大作の配給が多く、なかなかこういう作品に手が回らないというところかもしれない。そして、円安も手伝って興行的によほど自信がないと買い付けできないという流れもあるのかもしれない。 だいたい、これを観た11月11日は「すずめの戸締り」の初日ということで、シネコンのスクリーンの半分はその映画に提供しているわ

「窓辺にて」今泉力哉監督の恋愛感を題材にしたSF映画?

前作「猫は逃げた」は見逃したので、私的には今年初めての今泉力哉監督の映画。東京国際映画祭では観客賞を獲ったというから、結構エンタメ色が強いのかと思ったら、まあ、静かな会話劇だった。そしてカメラもほとんど動かない、フィックスで会話を捉えて、それを繋げて行く様は、小津安二郎的なものも彷彿させるが、小津ほど活劇にはなっていない。今泉流の静なる映画である。 だから「観客賞」というのは、どういう観客が選んだのだろうか?と考えてしまった。稲垣吾郎のファンだったら、まあそれなりに楽しめる

「アムステルダム」1933年のアメリカのほとんど実話というお洒落

映画の舞台は1933年。回想的に1918年から1919年のアムステルダムでの生活が描かれる。そう、このタイトルは主人公三人が知り合った場所の名前から由来する。ある意味、友情の物語であり、彼らがアメリカから世界制覇を導こうとした輩と戦う話である。色々と、塩梅の悪さはある気がしたが、男2人と女1人の友情物語は、久しぶりだったので微笑ましかった。そう私どものように「冒険者たち」とか「明日に向かって撃て」を映画の一つの伝説として語るような世代にとってはその組み合わせは好きに違いないの

「線は、僕を描く」命を水墨画に封じ込める感じが、もう一つ足りない気はしたが、面白かった

予告編で水墨画の話であることは知っていた。そして、横浜流星と清原果耶の主演ということで観たわけだ。期待以上に面白かった。自身も水墨画家である、砥上裕將の原作の映画化。監督は小泉徳宏。水墨画という、どちらかといえば地味な世界を、若者たちにも興味が湧くように描かれていて、これで水墨画をやってみたいと思う人も多くいるだろうと考えられる作品。そう、こういう映画はその素材に興味が湧くようにしないことには始まらない。その辺りはなかなかうまくできていたと思う。 主演、横浜流星。最近、私は