現代版・徒然草【2】(第34段・貝)
今週は、月曜から金曜まで本シリーズが続くことになる。
今日は、第2回となるが、第34段の貝についての話をみてみよう。
原文は、次のとおりである。
甲香(かいこう)は、ほら貝のやうなるが、小さくて、口のほどの細長にさし出でたる貝の蓋(ふた)なり。 武蔵国金沢といふ浦にありしを、所の者は、「へなだりと申し侍る」とぞ言ひし。
こんなに短い文であるが、これは、今で言う「アカニシ貝」のことに触れている。
アカニシ貝は、ネットで調べると分かるが、小さい巻き貝であり、細長い前管溝(ぜんかんこう)があるのが特徴である。昔は、サザエの代用品として売られたことがある。
また、食用だけではなく、巻き貝の蓋(サザエの身を爪楊枝で食べたことがある人は、蓋が何かを知っているはずである)は、お香の原料にもなっている。
このお香の原料が、兼好法師のいう「甲香」(かいこう)なのである。
次に、武蔵国金沢という地名は、今の神奈川県の金沢文庫があるところである。
海に近いところだから、貝の話になるのである。
ちなみに、金沢文庫は、北条実時(さねとき)が1275年に建てた日本最古の図書館である。
この年は、歴史好きの人なら分かるが、文永の役で蒙古襲来があった翌年である。つまり、北条実時が、執権である時宗に仕えていた頃である。
このとき、まだ兼好法師は生まれていなかったのだが、文学好きな彼なら、この話を聞いたときに金沢文庫も訪れたことだろう。
兼好法師は、アカニシ貝の蓋を金沢の浦で見つけたのだが、地元の人からは、「へなだり」と説明された。
つまり、土地によって、「甲香」以外にも呼び方があることに興味を示したということなのである。