唱歌の架け橋(第16回)
今月の唱歌の架け橋シリーズは、終戦の日を来週に控え、明日と金曜日は、広島と長崎の原爆の日ということもあり、終戦特集とする。
今日、紹介するのは『里の秋』という歌であり、作詞は斎藤信夫(さいとう・のぶお)、作曲は海沼實(かいぬま・みのる)だが、実は、この歌は1941年の太平洋戦争時に作られたものである。
そのときの歌のタイトルは『星月夜』だったのだが、終戦後は、海沼と斎藤の2人の話し合いによって、歌詞の3番と4番が書き換えられ、『里の秋』として以下のように3番までの歌になった。
【1番】
しずかな しずかな 里の秋
お背戸に 木の実の 落ちる夜は
ああ かあさんと ただ二人
栗の実 煮てます いろりばた
【2番】
明るい 明るい 星の空
鳴き鳴き 夜鴨の 渡る夜は
ああ とうさんの あの笑顔
栗の実 食べては おもいだす
【3番】
さよなら さよなら 椰子の島
お船に ゆられて 帰られる
ああ とうさんよ ご無事でと
今夜も かあさんと 祈ります
ちなみに、旧3番と旧4番の歌詞は、次のとおりである。
【旧3番】
きれいな きれいな 椰子の島
しっかり 護(まも)って くださいと
ああ 父さんの ご武運を
今夜も ひとりで 祈ります
【旧4番】
大きく 大きく なったなら
兵隊 さんだよ うれしいな
ねえ 母さんよ 僕だって
必ず お国を 護(まも)ります
以上である。
戦争を知らない私たちの世代には、もはや縁のない歌かもしれないが、当時は、この歌を通して、戦争に行って国を守ることが当然であるかのような風潮が広がっていたことをしっかりと理解しておく必要がある。
「さよならさよなら椰子の島 お船にゆられて帰られる」という部分は、南太平洋の戦地から帰還する日本軍のことが描かれている。
改めてメロディーにも注目すると、高音の旋律が美しくももの悲しい雰囲気を生み出している。
ちなみに、「お背戸」とは、家の裏庭のことである。「いろりばた」も含めて、若い世代には馴染みのない言葉があるとは思うが、終戦直後の父親のいない家庭の寂しそうな様子が胸にひしひしと伝わる名曲である。