法の下に生きる人間〈第82日〉

昨日の記事では、遺言は、民法で定められている方式に従って行われる必要があることに触れた。

では、民法で定められている方式とは、どのようなものなのだろうか。

その方式は、大きく分けて普通の方式と特別の方式がある。これらの方式の呼称も、民法の条文で明記されている。

今日は、特別の方式について、976条から979条の条文をもとに解説しよう。以下のとおり、4パターンがそれぞれ挙げられている。

(死亡の危急に迫った者の遺言) 
【第九百七十六条】
疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人三人以上の立会いをもって、その一人に遺言の趣旨を口授して、これをすることができる。この場合においては、その口授を受けた者が、これを筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、印を押さなければならない。 

(伝染病隔離者の遺言) 
【第九百七十七条】 
伝染病のため行政処分によって交通を断たれた場所に在る者は、警察官一人及び証人一人以上の立会いをもって遺言書を作ることができる。 

(在船者の遺言) 
【第九百七十八条】 
船舶中に在る者は、船長又は事務員一人及び証人二人以上の立会いをもって遺言書を作ることができる。 

(船舶遭難者の遺言) 
【第九百七十九条】
船舶が遭難した場合において、当該船舶中に在って死亡の危急に迫った者は、証人二人以上の立会いをもって口頭で遺言をすることができる。

以上である。

この中で、私たちにとって、この数年で最も身近であった条文が、977条である。

伝染病隔離者の遺言書は、警察官一人及び証人一人以上の立会いをもって作ることができるという。

コロナがものすごく脅威だったとき、コロナで急死した人に親族ですらお別れの対面できなかったという時期があった。

コロナに罹患したら、息苦しさや医療器具の装着などもあって遺言を作成するような状況ではないにしても、もし機会があれば、法律上は、口述筆記などの手段で作成は可能である。

ただ、現実的に、最低限、警察官一人と証人一人を立ち会わせることが可能なのか疑問ではある。

隔離されているわけだから、防護服を来た医療関係者が証人になるとして、警察官は駆けつけてくれるのだろうか。

978条と979条の在船者や船舶遭難者の場合もそうである。

そう都合よく人が揃っているものなのかとか、山岳遭難者はどうするのかとか、いろいろとツッコミどころはある。

976条の「署名し、印を押さなければならない」という文言については、デジタルの時代に対応した文言も追記されるべきだと思うのだ。

4パターンとも立会人が必要なら、一人で死ぬときに、スマホのメールに遺言は残せないのだろうか。

ZOOMの画面を通して、テレビ会議のように立ち会ってもらうのはどうなのだろうか。

状況に応じていろいろと検討する余地はあるだろう。


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