会社をクビになった話
会社をクビになった。
大学院を修了して、入社後3年目を前にした秋だった。
”戦力外通告”をされた。
給料に見合う働きをしていないんだって。
要は給料ドロボーってことだ。
能力がポジションに見合わないんだって。
でも、社内システム的に、降格や降給はできないんだって。
人事と上司と、その上の上司に呼ばれて、
「あなたは、うちでなく別の会社の方が輝けるのではないですか?」
って穏やかに言われたよ。
(「あ、辞めろってことですね」)
「(クビより)自己都合退職の方が、あなたも次を探すのに都合がいいと思いますから…ま、早めに、ね。」
ホワイト企業でアピールしている会社だったから、このへんの言い回しとか「なるほどね〜」と妙に感心してしまった。
「日本では、会社に正社員で入社してしまえば、
よほどのことがない限りクビにはならない」
…と、言われているようだが、そうでもないらしい。
(外資系だったからかな。)
***
小中高では、課外活動も部活も学級委員も頑張ってきた。
大学でもハメを外すことなく、成績は良かった。
大学院を修了するときは、表彰された。
…学校では優等生だったのに、社会に出たら「使えないやつ」ってことか。
会社では、本当、何していいのかわからなかった。
多分、私は、典型的なダメ社員だったと思う。
会社には自分の知らないルールがたくさんあって、知らないうちに破っていて(このエリアにはワッペン付けないと入ってはいけない、とか)毎日怒られていた。
”ジョーシキ”で考えればわかるんだって。
元々、実家では「あんたはブスで一生結婚できないんだから、お勉強だけは頑張れ」って言われ続けて育ったので、”お勉強→お仕事”が否定されたら、自分には何も残らない。
何も残らない。
当時、
「日本では、会社に正社員で入社してしまえば、
よほどのことがない限りクビにはならない」
を信じていたから、私の無能さは”よほどのこと”なんだと打ちひしがれた。
会社をクビになるレベル……詐欺とか、横領とか、そういう犯罪と同じレベル。自分の無能さは犯罪レベルなんだと思った。
毎日死にたかった。
生きてても迷惑。でも、きっと死んでも「迷惑な死に方した」とか「家族や会社の評判を落とした」って言われ続けるんだろうな…と思うと、本当生まれてこなきゃよかったと思った。存在が失敗だ。
鬱でゾンビのように暮らしていたが、それでも実際”生きている”限りお金…生活費が必要だ。いつまでも夫に借りられない。
そこで、家畜の糞尿を処理するようなアルバイトを始めた。
もともと自己肯定感が皆無なのに、会社をクビになって自己肯定感なんかマイナス百億くらいで、「他人のやりたがらなそうな仕事」を自分がしよう、と思った。
1年くらいはやった。完全な肉体労働。洗濯機がマジ臭くなった。
一緒に働いていたのは、読み書きが十分にできない外国人とか。色々事情がある人。そこで思った。私がこの仕事のパイを奪ってはいけないな、と。
………というのは、キレイゴトで、ここでも私は「使えねーな!」と怒られていた。あ、ココでも、私はダメなんだ、と思った。
そこで、「覚えたことをただやるだけの軽作業」など、とにかく人に迷惑をかけないように…と、その一点にフォーカスして職探しをした。
***
いくつかの職を経て、達観した。
どこに行っても怒られる。
もうね、腹を括るしかない。
私は優等生じゃない、できない人間なんだ。
学生なんて所詮お客様だ。
私は、社会では劣等生なのだ。
とにかく怒られて、謝って、メモして、ひとつづつこなしていくしかない。
…そして、それでもダメだったら、また辞めればいい。
最初に正社員で入った会社を辞めるとは、夢にも思わなかった。
3年もたないとか、人間失格になった気がしていた。
***
何年も、人間関係を絶っていた。
こんな自分が恥ずかしかった。
でも、恐る恐る会ってみると、みんなけっこう普通に転職していた。
そして、案外いろんな人が、いろんな形で「会社をクビになって」いた。
”追い出し部屋”に移動とか、仕事を全く与えられないとか、無視とか…
様々なプレッシャーを与えることで、辞めるよう無言の圧力をかけるこは
割とあっちでもこっちでも横行しているらしい。
気づけば、”社会人”として20年という年齢だ。
何人か集まると、
会社ですごくいじめられた話とか、
実質的にクビになった話とか、
すごく辛かった新人時代の話とか、
…を、笑って話す。
そして、
「新入社員時代、仕事まったく教えてもらえなくてさ〜
ぜんっぜんわかんなかったんだよ〜
社内用語もわかんなくて、みんな何喋ってるのかわかんないし。
教えてもらってないのに、毎日怒鳴られるしー」
と、「お前は私か?」みたいなことを言う人もいる。
けっこう、みんな同じような経験をしていたのかもしれないな、と思う。
私は、怒られると、
「いなくなってください!!!!!あなたは無価値で不要です!」
と言われた気がして、消えねばならないと思ってしまっていた。
また、怒鳴られると、
頭が真っ白になって、内容をメモするどころか、何を怒られているのか、何を求められていたかわからなくなってしまっていた。だからまた怒られる。
ずっと「死ね死ね死ね死ね」言われているような気分になる。
…ちゃんと、言われていることを聞いて理解して覚えなければならない。
私は、社会から逃げてしまった。
(入社1年目で結婚してしまった。まじ結婚詐欺。)
自分から、逃げてしまった。
そして、そこで能力も精神年齢もストップしてしまった。
年齢を聞かれると、ナチュラルに10コ下の歳を言ってしまいそうになる。
そのくらい、”意識”というか”気持ち”がその辺でフリーズしている。
また、頑張らなきゃいけない。
でも頑張れない。逃避。
最近、”書き出す”ことを覚えた。
書き出すと、浮遊霊のような”気持ち”が形を得て定着する。
その時点で、過去が ”過去” になる。
頭の中にいつまでもある”過去”は、いつまで経っても”現在”だ。
(引きずっている状態、とも言える)
あの日の恐怖も、今日、”過去” にする。
***
「あなたは、別の会社の方が輝けるのではないですか?」
…あの時の言葉を、嫌味なくストレートに受けとってみようかなぁと思う。
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