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娘を支配する技術 ① 「ヒステリー」
世の中には、毒親と呼ばれる親たちがいる。
昔から、「暴力オヤジ」は存在したが、私たちが「毒親」というとき、それはほとんどの場合「暴力親父・雷親父」のニュアンスとは異なる(もちろん、暴力的な親も毒親に含まれるが)。
「暴力的な親」は、その親自身が凶器となり、拳で迫ってくる。
一方、「毒親」はというと、まさに子供の脳や精神に毒を注入するようなやり方で虐待を行う。その毒は子供の精神的な成長を妨げ、生きる気力を奪っていく。
親から離れた後も、「毒」に苦しむ。
「(身体的に)虐待されてきたわけではない」「特に傷ついた証拠がない」という事実も、周囲に理解されないという観点から、苦しみを助長する。
毒親の資質
私は、「毒親」になるには資質(才能)があると思っている。
その資質(才能)のひとつが、「ヒスる」ことができる性質である。「ヒスる」とは、「ヒステリーを起こす」「ヒステリックに喚き散らす」ということである。
つまり、少し前に流行った「お母さんヒス構文」を使いこなせるかどうかということだ。
ヒス構文とは、「理論の飛躍」を大胆に使い、相手が罪悪感を抱くようにヒステリックに畳み掛けていく話法だ。
例えば、独立した娘に生野菜を大量に送り、娘から「家にいないこともあるから、やめてほしい」と言われたとする。すると、母親は一気にヒートアップして「愛情を踏み躙られた!…ママなんて死ねばいいってことね!死んでほしいのね!お望み通り今から死にますから!」と捲し立てるようなかんじである。
これが男女間の話であれば、「地雷女」といわれる女性を怒らせてしまった時に近いだろう。
だが、この「ヒス構文」、誰にでも使いこなせるわけではない…と、私は思う。少なくとも、私は、「ヒスられた」時に、「ヒステリー返し」はできない。その理論の飛躍に呆然として、いつも返す言葉を失ってしまう。
さらに、驚くべきはその威力である。怒りの「最大出力」を維持した状態で数時間怒鳴り続けられるのだ。一度発火すると、立板に水の勢いで相手(子供)の欠点をあげつらい、相手(子供)に口を開くスキを全く与えないまま、10年前のことまで掘り返して怒り続けることができるのは、一種の能力だと思う。
いかに理論的に破綻していたとしても、相手に言葉を発するスキを与えず、猛烈な勢いで押し切ってしまうのだ。
この「母から娘に対するヒステリー」の効果は凄まじい。他人が相手であれば少しは「嫌われてしまうこと(相手が旦那であれば離婚)」が頭をよぎるところ、娘相手ではそれがないため手加減がない。
された側は殴られたわけでも骨を折られたわけでもないそれでも身体はボロボロになり、体を起こすのもやっとという状態まで痛めつけられる。おそらく、体の状態を管理する脳がやられてしまったためだ。
そんな親とは疎遠にするなり絶縁すればいいという人もいるだろう。だが、そうさせないよう前もって時間をかけて娘の脳をハッキングしておくのも母親だから成せる技だ。また、ヒスられると家を出るためのエネルギーそのものが奪われることもある。
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ヒステリーの威力は、相手から冷静な思考力を奪い去ることだ。頭が真っ白になって「もう、わかったから。わかったから。勘弁して。」とこちらが負けることで相手を宥めようとしてしまう。
加えて、「どんなに冷静に説明して無駄」「心を尽くして理論的に反論(あなた個人を否定してるのではない。頼んでもいない物を大量に送るといった”行為”をやめてほしいのだ)しても無駄」という虚脱感から、自らの意思を伝えることを諦める心境に至ってしまい、問題がいつまでも自分の内側にモヤモヤとして残る。
「ヒス構文」が使われるとき
親が子供に間違った情報を伝えたとき(または、間違ったことをしたことがわかったとき)
子供が親の意見に反対したとき
子供が文句を言ってきたとき
そんなときは、母は娘を「ヒス構文」でねじ伏せる。
「はいはい私が悪かったですよ!!じゃあ、あんたは一生で一度も間違ったことはないのね!!?…そういえばあの時、あんた間違えたよね?(2年前の)あの時もあんたが間違ってたよね?どう責任取る気でいるの??え???言ってごらんなさいよ!言えって言ってるのよ!!!言いなさいよ!!どう責任取るの???えぇえ!!????????」
というように、どんな時も絶対に子供が謝って会話を終了させる。
決して「反抗」しているわけではなく、意見のとして聞いてほしいと思って冷静に話しても、それら全てを「自分への攻撃」と捉えて全力で反撃してくる。
この「どうせ無駄」「親は私の意見は聞いてもらえない(= 愛情が感じられない)」という感覚は、地味でパワフルな「毒」となって脳と身体を蝕む。
毒親の資質アドバンス編
プロの毒親たるもの、ヒステリーを起こすのははターゲットの子の前でだけである。
子供が複数いる場合は、ターゲットの子供以外、そしてもちろん外では「完璧ないいお母さん」でいることを怠らない。学校の先生なんか一番に味方につける。
こうすることで、ターゲットが学校の先生や他の親族に助けを求めたとしても、周囲は「あんないいお母さんが?」という反応になる。
ターゲットが助けを求めれば求めるほど、その子の周囲からは人が引いていき、逆に黙っていても母親の周りには味方が増えていく仕組みだ。
親戚、先生…やはり歳の近い親の方に共感してしまうのはやむを得ないだろう。「子供の反抗期、大変ですよねぇ」とそこに共感し、ターゲットの子供から助けを求められても、逆に説教してしまう。
効果的なヒスり方
「ヒス構文」により威力を与えるには、「死ぬ死ぬ詐欺(の本気のヤツ)」と併用するのが効果的である。
この「ヒステリーと死ぬ死ぬ詐欺のコラボ」を幼少期から喰らって育つと、成長した頃には「親に都合の良いことしか言わない人間」になる。
母親が機嫌を害さないよう、話題や言葉を選ぶ。母親や心配しそうなこと、(結果的に)母親を否定することになるようなことは慎重に避ける。
「ママ、いつもありがとう」と、笑顔を絶やさない「良い子」になる。
最終的には、冤罪を受け入れる子になる。
どうせ反論してもヒステリーが加速するだけで、こちらの精神が疲弊して完全に屈服するまでギャンギャンギャンギャン喚かれるだけなのだから。最初から屈してしまうようになるのだ。
ヒスれるのもある意味才能と思うワケ
冤罪を受け入れるというのは、よほどのことである。面倒だからといって「はい、はい」と受け流せるものではない。濡れ衣には、脳が拒否反応を起こす。
しかし、この拒否反応すら抑え込み、罪を認めさせてしまうのが、「ヒステリー」の成せる技なのだ。
繰り返しになるが、大胆すぎる理論の飛躍は誰にでもできることではない。さらに、「怒りのテンションがMAX」の状態で、相手(子供)に口を挟むすきを与えずに捲し立てる…これを少なくとも2、3時間は継続するのもなかなかである。
怒鳴り声が終息する頃にはもう何の話だったかさえわからなくなる。
親が子に対してこのような怒り方をしている時、発せられる言葉以上のメッセージが子に伝わる。
「あなたの言い分は一切聞きません。」
「一生懸命考えて理論的に反論しても無駄。」
そして、「絶対にお前を潰す!」と言う強い意志だ。
相手(子供)に戦意を完全に喪失させ、完全に諦めの境地に落とし込むまでとにかく吠え続ける。
…これ、本当にやってみろと言われて誰にでもできることではないと思う。通常の精神状態から逸脱できなければならない。飛躍した理論を信じている(本当にそう思っている)からこそ、相手を諦めの境地に叩き落とせる。そこまで怒りのボルテージを上げ、手加減なしで「相手を絶対潰す!」という確固たる決意を持って臨める(ふつうは、相手との関係が悪化することを考えてしまい本気で潰せないだろう)というのも、ある意味才能だと思うわけだ。