女の子時代の「かわいいの壁」が消えてきた話
私の持っていた「かわいいへの壁」が、最近どんどん低くなっている気がする。
前提、何を「かわいい」と思うのかは人それぞれだ。誰が何をかわいいと言って、それを手元に置こうが、誰かにあげようが、それはその人の自由だ。しかし、今までの私は、どこかかわいらしいものを嫌う節があったと思う。
多くの同世代の同性が「かわいい!」と思うものを、かわいいと思えないこともあれば、同意することもあった。でも、かわいいと言われるそれらを、自分が選んだら、人はどんな顔をするだろうか。更に言うと、その選択は、果たして自分らしいと言えるのだろうか。自意識過剰だったと言えばそれまでだが、かわいいものを素直に受け入れられない、「かわいいの壁」を私は確かに持っていた。
そんな壁が、消えつつある。特に直近数カ月で購入したものを紹介しがてら、その証明をしていきたいと思う。
1) ル・クルーゼの鍋
ル・クルーゼをご存知だろうか。フランス生まれのおしゃれなキッチンブランドである。
特にホーロー鍋が有名ではなかろうか。何かの漫画で、理想の花嫁像を乙女チックなキャラが語る時にもル・クルーゼの鍋が出てきた。だから、私はこの鍋を、長らく、家庭的でかわいらしい女性が、他人へ料理がどう映るかなども意識しつつ使う、おしゃれ道具と定義していた。そして "It's not my type!" とも思っていたわけである。
それが今年、母が誕生日に欲しがっているものを妹に探らせたところ、ル・クルーゼの鍋と言っていると聞いて驚いた。私の母は、確かにターシャ・テューダーになりたい、などと言う、若干ファンシーな初老の主婦だが、洋服などには無頓着で、インスタにル・クルーゼの鍋などとアップするようなタイプではない。その母が…まじか。
ちょうど公式HPでセールをしていたこともあり、こちらのココットを購入した。淡い黄色のこれはミモザ色ということだった。
(背景は母の仕込み中の梅干しである)
母に渡すと、すぐ試しに野菜のワイン蒸しを作ってくれたのだが…ここでまた驚くことになる。美味しいのだ。めちゃくちゃ美味しい。コロナの自粛が明け、久しぶりに実家で食べた母の手料理ということを差し引いても美味しい。母はとても喜んだ。私はそれまで全く興味がなかったのに、帰宅すると、メルカリで即、同じ鍋の一回り小さいサイズを購入した。
圧力鍋は今までも使っていた。お肉はほろほろ、時短にもなる。おそらく豚の角煮などは、私は今後も圧力鍋を使うだろう。だが、オーブン焼きのような、素材のうまみをじっくりと引き出す力は、ル・クルーゼが強い。ワイン蒸しやパエリヤのような炊き込み系が、本当に美味しい。私のル・クルーゼちゃんは定番のオレンジ色だ。これと同じ色になるバターチキンカレーをこれで作るのが最近の楽しみだ。
ル・クルーゼ、かわいいだけじゃなかった。
今まで持っていた偏見と非礼の数々を、フランスの方へ頭を下げて詫びたい。かわいい鍋、と定義し、私がそれを変に避けたせいで、今まで私はこの機能性が素晴らしい道具を自分から引き離していたのだ。ものすごく反省した。かわいいと機能美は両立するのだ。そして両立したそれは、最強である。
2) ピンクのイヤリング
ピンクが好きと言えたのは幼稚園の年中さんまでだった気がする。その後、ピンクが好きと言うと、なんだかぶりっこの烙印を押されそうで、水色と答えていた。そして大人になるにつれ、ピンクが「女性」を指し、結婚、妊活、出産、女性特有の病気啓蒙、女性活躍、女性の転職、と、様々な「女性」をターゲットにしたサービスや運動で使われる色だと認識するようになった。
20代の私というのは、若く健康で、高慢だった。就活の際に「女性社員の比率」「女性の働きやすさ」のような言葉が説明会で躍るのも毛嫌いする人間だった。そんなの自分には関係ない、と思っていたのだ。そして、そういうタイプの人間だったので、ピンクをなんとなく避けていた。
それが最近、ピンクをあえて選ぶのもかっこいいかもしれないと思ってきた。特にnichinichiさんというアクセサリー作家さんがいるのだが、彼女の作品をツイッターで今年になってから知り、このツイートにものすごく共感した。
私は何度か彼女の展覧会や時間制のオンラインショップを覗き、こちらのピンクのイヤリングをゲットした。
元から貧相な体つきで、更に髪を失くした私には、全体的に女性らしさが欠けていた。だが、女性らしさを変に足すと、それこそチグハグに感じられ、近頃は化粧もなかなかしなくなっていた。このイヤリングは、思いっきりピンクだが、私の心にすっと入ってきて、眉もまつげもない私の顔に彩りを与えてくれた。nichinichiさんのツイートを見てきたからというのもあるかもしれないが、形がどちらかというとメニッシュで、堅いイメージだったからこそ、違和感なく付けられたのかもしれない。とにかくこれはお気に入りのイヤリングだ。かわいいでしょ。ピンクでしょ。でも、だからこそ、最近の私のお気に入りなのだ。
3) ジェラピケのパジャマ
私には一つ歳上のかわいい従姉弟がいる。私より小柄で、ピアノが上手で、いつでもニコニコしている従姉妹。彼女の結婚祝いに私が選んだのはジェラピケのパジャマだった。
その当時、私もまだ20代前半独身。ちょっと良いパジャマなら自分にも良いかなと思ったのだが、店舗のふんわりした調子、だけれど初任給にはかわいくないお値段を見て、ああ、ここは従姉妹のような正真正銘のかわいい人のためのお店だ…とプレゼントだけ買い、逃げた。従姉妹には靴下とヘアバンド、そして同色のお決まりのもこもこの部屋着上下セットを購入し、とても喜んでもらえた。彼女の出産祝いも、その流れでなんとなくジェラピケを贈った。
そして、私は現在30。ジャストサーティー既婚。ついでにハゲ。
コロナ自粛も相まって、部屋着で過ごす時間が増えた。いつもユニクロっていうのも味気ないかな、そもそも今着ている部屋着、いつ買ったユニクロだ…?
歳だからこそ、もうちょっとちゃんとしたい気がする。私はネットショッピングをすることになった。
その際、中学からの友人にラインしてみた。彼女は離島に住んでいるのだが、お洋服好きで、よくネットでのお買い物を楽しんでいる。ジェラピケは今更だろうか…と言うと、そんなことはない!と、私を勇気づけてくれた。こんなのも似合いそう、こんなかわいいブランドもあるよ、と気づくと友達と(オンライン)ウィンドウショッピングを楽しんでいた。そもそも友達とかわいい服を一緒に選んだりする経験も、私にはそんなにない気がする。しかし、心底楽しい時間だった。最高にかわいいが詰まった時間でもあった。
そうして、私が選んだ初めてのジェラピケがこちらである(画像は公式HPより)。
手触りがよく、どこも締め付けないので、着るととても良い気分になれる。それに…やっぱりかわいい。かわいいが近くにあると、なんだか笑顔になれる。見苦しいよりは、やっぱりかわいい方が良い。私はにんまりした。
更に、これは思いがけなかったが、その時相談に乗ってくれた友人は、違うブランドのこんな部屋着を、私にプレゼントしてくれた。
バイカラーで、黒だけどかわいいワンピースタイプのルームウェア。これは、自分では選ばなかった「かわいい」だ。友達が私に選んでくれた「かわいい」。そう思うと余計に嬉しい。友人は言った。「かわいいは正義」。私は深く納得した。
まとめ
そもそもなんで「かわいい」を避けていたのだろう。若いころの自意識やこだわりを、否定する気持ちはない。私は確実に、あの頃の自分の延長線上を生きている。だが、自分や他者に向ける厳しい目線が、あの頃はきつかったのではないだろうか。
最近は、かわいい、と思えるもの自体も、増えてきた。若い子のミスや小生意気な態度を、昔ならむっとしたかもしれないが、心からかわいいなと笑ってあげられる自分がどこかにいる。もしかしたら、昔は自分にも、そんな厳しい目線を向けていたのかもしれない。それを、そんな大したことないと、自分にかわいいを持つことを、許せるようになってきたのだろう。それは、こだわりを持ち続けて高らかに歩くことをやめてしまったともいえる。でも、かわいいものに囲まれて幸せな気持ちになる私が知れたのは、なにはともあれ、良いことだと思うのだ。めでたしめでたし。
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