そして、神戸。その先
🎶 神戸~
泣いてどうなるのかぁ~
(ワワワワー)🎶
前川清さんの、水底のように深く低い声でお馴染みの歌。
あ、昭和世代にしかわからないか。
ともあれ。
「こうべ」って、どんなところだろう。
昭和ロマン満ち溢れるこの歌に、幼い心をときめかせ、神戸は、私にとって「大人になったら絶対行きたい場所」となった。
そして、二十歳になった私。
失った恋と、うまくいかない新しい恋の狭間でもがき、人生そのものを憂いていた。
今思えば笑っちゃうほど青臭い理由で、傷心旅行と称し、私は憧れの神戸の地に、初めて足を踏み入れた。
うろこの家に併設されたギャラリーから、神戸の海が見渡せた。
故郷の、秋祭りの日と同じ名のカフェレストラン「October 14」からも同じ景色が見えた。
しばらくの間、一枚の絵画のように動かぬその光景を眺めてけていたら、唐突にこう思った。
「もう、いいや」
やけくそではない。
目の前に広がる、雄大なる海に比べたら、なんてちっぽけなことに私は囚われているのだろう。
急にアホらしくなった。
胸に沈んでいた錨が、すーっと、海面に浮かび上がったような気持ちになった。
そうだ、もう、いいじゃないの。
明日はまた、新しい日が昇る。
内山田洋とクール・ファイブの「そして、神戸」は、こんな歌詞で終わる。
🎶夢の続き 見せてくれる
相手探すのぉぉよー🎶
続きは要らない。
新しいストーリーは、私自身で見つけてみせる。
その後、震災があり、コロナがあり、街の様相も随分と変わったけれど、あの時感じたスピリッツはそのまま。
酸いも甘いも知り尽くした歳になっても、神戸の街は、私の魂の休憩処であり続ける。