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【読書記録】『たゆたえども沈まず』
『たゆたえども沈まず』
原田マハ著
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悲劇の画家ヴィンセント・ファン・ゴッホと彼の弟テオの深い絆が描かれている。作品は、ヴィンセントの才能が世に認められることがなかった時代に、彼を支え続けたテオの苦悩と献身を中心に展開する。
物語は、テオが画商としての立場から、兄の作品を広めたいと願いつつも、現実の厳しさに直面する姿が印象的。特に、テオの内面的な葛藤や、ヴィンセントの才能に対する強い信念が描かれ、二人の関係がどれほど重要であったかが浮き彫りになる。作品は必ず売れることを確信しながらも、ヴィンセントは、自らの命を絶ち、後を追うようにテオも死んでしまう。
本書のタイトルにある「たゆたえども沈まず」(ラテン語: Fluctuat nec mergitur)という言葉は、パリ市の精神を象徴するもので、困難に直面しても決して沈まない姿勢が、物語全体に共通するテーマとして存在する。人間は一人では生きていけないというメッセージが強調され、兄弟愛の深さと、芸術の力が人々を結びつける様子が、そして、そこに日本人画商の存在が近代西洋美術に少なからず影響を与えていた様子が見えてくる。
後年『星月夜』として世界的な評価を受けることになる作品を見て、テオは画商として兄を表舞台に引っ張り出せると確信した。まさにそんなとき、ヴィンセント・ファン・ゴッホは、自殺してしまう。
そして、兄を追うようにテオも亡くなってしまう。
物語の主題は何か?
ひとは死に向かって生きているわけで、生かされている時間に自分に与えられている使命を果たすと言うことが、課されているのだろうと理解した。
何年も前に、印象派とかポスト印象派など全くわからずに、アムステルダムのゴッホ美術館に行ったことを思い出した。
画家が見えている世界というのは、違うのだなあとだけは思った。
私自身、大学時代に木炭デッサンのサークルに入っていて、週2回くらいイーゼルを前に木炭でアグリッパを計測しながら、輪郭やら陰影やらいろいろなものが見えてくることに感動したことを思い出した。