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【読書ノート】『偽声』

『偽声』
藤井清美著


主人公(私:渚)は、声優を目指して、養成所に何年も通い、芽が出ないでいる。同期の友人たちは、夢を諦めてどんどん辞めて行く。

名越先生という大御所の講師から演技の指導を受けて、悩んでいた時、ふと自分の母親を思い出した。母親は渚が中学生の時、勤務先の上司と不倫をして、家族を捨てた。母親の放つ言葉は、場面ごとにまったく異なる。やっていることはめちゃくちゃなのに、ストレートに響いていた。

『素直な人だったのだ。だから、結婚して子どももいるのに好きな人が出来たとき、「あなたのことが好き」と言ってしまったんだろう。』

その時、渚は何かを掴んだ。

キーワード

①リリアン編み
非常に細かい編み目で特徴付けられている。この細かさは、編み手の繊細な技術と神経の使い方がもとめられる。この繊細さは、人の内面の深さや微細な感情の表現を象徴する。

また、リリアン編みは異なる糸を組み合わせて作られることから、多様性や異なる要素の調和を示す。

さらに、リリアン編みの緻密な模様や美しいデザインは、人間の創造性と美意識を表す。

②声優
表現と創造の象徴であり、声を通じてキャラクターに命を与える。そして、物語をより深く魅力的にする。声の力を通じて、豊かな世界を創り出す重要な存在といえる。

キーワードから見えてくるもの。
渚は、夢を諦めた美春からリリアン編み機を譲り受ける。

美春にとってリリアン編みは、目指していた声優だった。そして、諦めたのだった。確かに、声優に必要な要素とリリアン編みに必要な要素は近いものがある。

リリアン編みで終わらないために必要なことは何か?

物語の主題は何か?
人生は与えられた役割を演じることと言われていたりするのだけど、生きて行く上で大切なことは、自分に素直であることなのだと理解した。

家族を捨てた母親を軽蔑していた渚が、母親の多彩な表現力に気づいた。母親の表現力は、演じるものではなく、素直な感情をそのまま表示したもので、それこそ、一流の女優の表現力だったということなのだろう。

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