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『人間腸詰』

『人間腸詰』
夢野久作著


大工の治吉〈あっし〉が、セントルイス万博に台湾館を造るため渡米した時の怖い体験話。

明治三十七年(1904年)正月

〈あっし〉が、台湾館の前で呼び込みをしているところに、チイチイとフイフイという女性がやってくる。〈あっし〉はチイチイにギャングの元へ連れて行かれ、拉致される。そこに、フイフイが現れて、彼女は肉挽き機械に投げ込まれてしまう。〈あっし〉はこれにショックを受けて失神。その後、〈あっし〉は救出され、博覧会終了後に日本に帰国することになる。領事館の人から、記念品として、ソーセージの缶詰をもらい、早速、食べようとすると、缶の中にフイフイの手紙の切れ端と黒い髪の毛が入ってたことに気づく。

ダジャレの多い、滑稽話のようなのだけど、きみの悪い要素もあり、訳がわからない。

いろいろ、キーワードを見てみると
歴史的な、いろいろな要素が、取り込まれていることが、わかる。

①「セントルイス万博」
1904年4月30日から12月1日までアメリカ合衆国セントルイスで開催された国際博覧会。人間の展示が行われ、アパッチ族やフィリピンのイグロット族、ザイールのムブティ族などが「原始的」などとラベル付きで、展示されたりしていた。

②「天草の女」
19世紀後半に日本から東アジアや東南アジアに渡り、「からゆきさん」と言われる売春婦を指す。本書で登場するフィフィは、天草の女なのだ。

③「ソーセージ」
江戸時代から、日本にも入っていたはずだけど、セントルイス万博以降は、西洋料理の一種として、主に洋食店や高級ホテルなどでは、提供されていたらしい。もっとも、ソーセージの原料となる腸詰めは、日本では古くから犬や猫の餌として扱われており、食用としては忌避されてた。

④「フリッツ・ハールマンの連続殺人事件」
1919〜24年ころドイツで、起こった24人連続殺人事件で、遺体は、ミンチにされて、ソーセージになって売られていたのではないか?と言われているきみの悪い事件。

本書に戻ると、フィフィは、実は、日本人で、アメリカに売春婦として売られていたのだった。〈あっし〉には、日本の故郷へのことずけを頼みたかった。また、チイチイが、〈あっし〉を拉致しようとしていることを伝えようとしていて、それがためにソーセージにされてしまった。

この作品は、昭和11年(1936年)に発表されたのだけど、約10年前にドイツで起こった24人連続殺人事件で、人肉が、肉屋に持ち込まれていて、ソーセージとして売られてしまっていたことをもじっているらしい。

本書の発表当時としては、得体の知れない西洋のソーセージ、腸詰の中に一体何が入っているのだ?的な、タイムリーな、滑稽で、かつ、ギョッとする小説だったのだろうと思った。

human nature

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