苦しいと思うことには原因がある
「苦しい」と思うことには、原因がある。
例えば、どうしてもうまくいかないことがあったり、関係が良くない人がいたり、トラブルばかり起こったり。
その原因は、自分の中にある。
この言葉を耳にすることが多くなった。
他人を変えることはできない、自分を変えろと。
私だってそうだった。
辛い辛いと思っていた仕事があった。もう仕事をやめようかと何度思っただろう。
上司ともうまくいかない。仕事も全然はかどらない。
この職場のせいだ。社会のルールのせいだと思っていた。
ここから逃れる方法はないものかと、仕事以外のことに逃げ場をずっと探していた。趣味に没頭したり、アイドルにハマってみたり、やたらと人脈を広げてみたり。
でも、それは違っていた。答えは簡単だった。
自分が仕事に没頭していなかったことが原因だった。
もう逃げることさえ疲れて、逃げようとするのはやめようと決めた。
他に何もする元気もない。なら仕事すればいいやと。
そうすると、仕事の面白さがわかる。仕事があることのありがたみがわかる。職場の人が自分を助けてくれる。今までより、うまくいくようになった。
つまり、仕事に真剣に向き合うことが、解決方法だった。一番嫌だと思ったことに向き合うことが解決方法だったのだ。
逃げていた時にはわからなかったものが見えてきた。
こんなことを思ったのは、久しぶりに奥田英朗の「イン・ザ・プール」を読んだから。神経科を舞台にしたこの小説には、そこにはプール依存症の編集者、携帯依存症の高校生、脅迫神経症のルポ・ライター、見えないストーカーに怯えるコンパニオン、おかしな人がぞくぞくとやってくる。一見ボンクラ息子に見える伊良部医師は、彼らを否定せず、彼らと一緒になって病気を治すというか、病気との付き合い方を見つけていくのだ。
心身症なんてのは神の采配なんだから、自分じゃ抗わないこと。『なすがままに』がいちばんなんだから
伊良部先生のいうとおりだ。
私も神の采配に抗ってもがいて、結局そこから答えは見つけられなかった。
抗うのをやめ、現実を受け入れたから途端に事態は好転したんだなあと、この本を読みながら、しみじみ思う。
伊良部先生は、決して患者を否定しない。常識ではおかしいと思うような言動を繰り返す患者を当たり前に受け入れ、同じ目線で、彼ら以上に無邪気に、はちゃめちゃに楽しむ。その全てを受け入れる姿勢が患者の心を開かせ、先生を信頼することで、病気を向き合う勇気を得ていく。そして、自分の思考の歪みに気づく。
自分を好きになろうとか、自分の欠点にも○をつけようというのは簡単だ。でも実際は、相当な覚悟が必要。だって、認められないから問題がそこにあるのだもの。この本は、どうすればその勇気を得られるのか、具体的な方法をいくつも示してくれる。
伊良部先生、デブでマザコンだけど、あなたに依存しそうです。