
いこみき
「新潟は、わたしの故郷ガリシアに、とても似ている」と、イサベルが言う。
日本語の響きが好きで、スペインの大学で専攻して、去年から日本の大学で明治時代の文学の研究をしている。
「そうだね。海岸線はリアス式、自然豊かだし、魚も美味い」
「リアスはスペイン語、日本語では溺れ谷」と僕の発言を訂正する。
「リア(入り江)よりも、溺れ谷のほうが、水が長い間かけて侵食した谷が埋没して海岸線になった感じがでています。美しい日本語は使わないと」
東京から5時間の長旅ドライブ。やっと日本海に着く。海の向こうにかすかに佐渡ヶ島が見える。
「わたしの生まれ育った街ビーゴからも、シエスの島が見える」
「新潟とガリシア。いこみき、みたいな関係」
「すみません、その日本語知らない」と、僕は素直に降参する。
「已己巳己」(いこみき)(字形が似ていることから)互いに似ているもののたとえ」
「面白い言葉でしょ。面白い日本語は使わないと」