Inflight movie critic 「怪物」
2/5ピーナツ
とても良くできた、社会派NHKドラマみたいな、見ごたえのあった映画。でもちょっと長かった。羅生門みたいに、同じ事件が、三人三様でアングルを変えると、誰しもクレイム・モンスターみたいな、あんた、人としてどうなのという「怪物」になりうるという、怖い怖いお話。
以前書いたが、私事、善人ぶるわけではないが、幼い無防備な子供を性的な対象にしたり大人として有利な立場でコントロールするような大人には、ヘドがでるくらい嫌悪感を感じる。そういう奴らは、レアム・ニーソンになってこてんぱんに殴りつけて、拳銃を頭に突き付けて脳味噌吹き飛ばしてやりたくなる。たしか、ジョン・アービングという米国のぶっとんだストーリー・テラーの文豪も、ガープだったかでそういうオヤジを登場させている。子供を危険にさらすおとなに立ち向かって、怒りまくる。
なので、最初の、シングルマザーのおかあさんがモンスター教師や事なかれ主義の校長や教頭に怒り狂うのはとても共感できた。そうそう、我々が自ら怪物になってそれをやらなかったら子供のために誰がやるんだ。か弱い子供のために、たった一人になっても戦って、変な奴らをやっつけろと。
羅生門的に、全然違う教師側のアングルがわかると、この映画のテーマであろう、「誰しもモンスターになりうる」というのが分かってくる。そうか、怪物だと思った教師は実はいいやつだったのか。
そこでこの映画、終わってくれたら、ピーナツ5だった。
ちょっとその後が冗長すぎたかな。主人公も怪物、校長も怪物、ダメージコントロールに走る教頭も怪物、クラスの子供たちもそれぞれ怪物。
校長の視点、息子の事情、とくに後半のメインテーマの息子の事情の説明がちょっと長かった。まあ、それを長くすることにクリエーターたちが意義を感じたということなんだろうけど。いずれにせよ、ごく普通の田舎町のちょっとした事件が、じつは複合的にいろいろな人々の怪物さが重なってメラメラと盛り上がって、ドラマとしてのクライマックスへ、でも実は、怪物的な100%悪人はいなかったというような話かな。
敢えて言うと、やる気のない気の抜けたような女校長演じる田中裕子が、すごく存在感があって、というか存在感を消しているのが怖くて、ぞくぞくっとしました。
田中裕子、目が細いのを変にデカ目にメークしたりせず、美しい東洋人的な細い奥二重の目が若い頃から色っぽいなあと思っていたのだが、70近くなった今も色っぽい。
そして闇という意味では登場人物の中で一番重たい孫殺しという疑惑を秘めたそんな田中裕子が、静かに主人公の小学生に、言えない事は管楽器でぷぅーと吹いちゃいなさいと諭すのが、ぜんぜんほのぼのしてなくて、不気味で、ほんとうに怖いくらいな静かな迫力があった。この映画の怪物はあなたでしたかね。怖いですねえ。
ちょっと主人公の小学生が後半の「説明」で自分が怪物のようだと自己嫌悪しちゃうというのは、NHKドラマ的な説明しすぎ。子供なんて、思春期にはいれば訳もなくそんな自己嫌悪に陥ったりするので、むしろこの羅生門ドラマでは、いろいろなものを抱えた大人のそれぞれの事情からくるぶつかりあいでよかったんじゃねぇ?と思った次第。
でも、いい役者がよい演出で語ってくれる、ぜいたくな、いろいろ考えさせられる社会派ドラマです。お勧めです。
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