甘いもののはなし

〈ショートケーキ〉
「ドはドーナツのド、レはレモンのレ」
高速道路。下りのSA。トイレの前。
父親の腕の中で呟くように歌うその子は、ポケモンより鬼滅の刃が好きなのだろうか。変わらないものはなんだろう。誕生日が苺のショートケーキなことくらいだろうか。

〈プリン〉
「花見は嫌い、花粉症にとってあんな辛い行事はないよ」そう言う彼女は、1日2回の薬を朝だけ飲んで外に出たがる子供みたいだった。
インスタで鶴舞公園を検索しながら僕が買ってきたなめらかプリンを食べる姿は、花より団子な子供みたいだった。

〈チーズケーキ〉
「テレワークとか言うのに休日は外に出ないと勿体ないって何が違うのかな」
連休のほとんどを家で過ごした夜にそう言う彼は、今更保険をかけているつもりだろうか。
昼間は暑いからと夕方ラーメンを食べるためだけに外出し、ケーキ屋に寄って帰る。悪くないのに悪いことをしている気になる。せめてもと選ぶのはいつもチーズケーキだった。

〈ザッハトルテ〉
「夏の夜は23度が1番心地いいんだよね」
彼女はいつも聞いたことのない脈絡で話をする。
友達という関係に甘んじて、危ないからではなくまだ時間があるからという理由で家まで送りながら、最近分かったんだけどねという前置きを、もう何度も聞いた。
友達という関係に甘んじて、やっぱり甘やかしてしまうから、そうなんだ。と受け入れる。
気が付いたら話題は変わっていた。「やっぱりチョコケーキで1番美味しいのはザッハトルテなんだよね。」