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INFJ(26)🌝

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最近の記事

ブリーダーズカップを観た日

“夢見ましたね”  インタビューに添えられたその言葉は、切なくて、綺麗だった。  3連休の日曜日、海外で開催されるレースを観るべく、朝5時半に起きた。やけにソワソワする気持ちを抱えながら歯を磨き、なんだかディズニーに行く前みたいだなと、顔を洗いながら懐かしく思った。テレビを付けると音量が昨日のままで、グリーンチャンネルに照準を合わせる前に、急いで音量を下げた。テレビでは大勢の人がひしめく中を、馬と騎手が通るところが繰り返し放送されている。無料放送に感謝しながら、JRAアプリ

    • 夜更かししても明日は来る

       9月30日の19時。彼女は明日から新しい会社で働く。数日前から、不安や緊張に押しつぶされそうになり、情緒不安定で、弱気になったかと思えば僕に怒ったりしていた。前日の今日はどうかと、仕事を終えて少しどきどきしながら家に帰ると、普通だった。ここまできたらやるしかない、みたいな心情なのだろうか。 「お疲れ様です、今日ワンマンドゥの餃子なんですけど、何飲みます?」 「じゃあ、レモンサワーかな」 「はーい、私は明日浮腫まないようにお酒は控えます」 「それならやめとくよ、明日は飲もう

      • あさま626号

         高さだけが揃っている不揃いな住宅街を、車窓からただ眺めていた。その一つ一つに生活が宿っているなんて当たり前のことを、感じるような、感じないような、さっきまで寝ていたせいか、そんなことを考えていた。  むかし、この新幹線が通ったとき、垂れ流していたニュースを見て隣の彼女が言っていた。新幹線が敦賀まで通ったおかげで、その間の特急がなくなったという話だった気がするが、聞きながらも、その特急に乗ったことのない僕はやっぱり、東京までの新幹線がある方がいいんじゃないかと思っていた。

        • 好きな色

           誕生日にもらった向日葵が、自分の代わりに窓の外を見ていた。誰とも関わりたくない日が他人よりも多い気がする自分を、外の世界と繋げてくれている。そんな黄色だった。  「何色が好きなの?」と聞かれても答えられない子供だった。当時は、好きということについて、誰かの許可が必要な気がしていた。親が良いと言うものは良くて、ダメだと言うものはダメなんだと思っていた。しつけられていく過程で、服も食べ物も喋り方も、自分の気持ちまでも決めてもらおうとしていた。自分で自分が掴めなかった。  親が

        ブリーダーズカップを観た日

          憧れ

           デジタル時計の最後の一桁の上の部分が点滅している。そのせいで4か9か分からなくなってくるし、そもそも3分くらいは進んでいるように思える。最近読んだエッセイ集は、一度に読むとぜんぶ忘れてしまう気がして、ひとつづつ日を置いて読んだ。質より量が重要であることは大抵重要じゃないのに、完璧より7割の仕事がそこそこのスピードでできる人が重宝される。  そうゆうことを永遠と考えていたら、また一日が終わってしまった。何もしていないのに、もう寝ないと、なんて思っている。このころの僕は、高円寺

          ぼーっとしてたら終わっちゃいますよ

          夏が そう言う彼女はいつも、面倒くさがりながら季節を追いかけていた。  梅雨明けしたのかも曖昧なまま、いつの間にか連日35度以上の日が続いていた。嘘みたいな暑さが、僕たちの生活をジリジリと囲んで、追い込まれるように8月に入ろうとしていた。 「男の人ってかき氷嫌いですよね」 「んー、そんなこともないと思うけど」 「でも好きではないですよね?」  買い替えたばかりのエアコンが、異様な静けさで部屋を冷やしていた。いつもだったら嫌がる主語の大きい話は、これまでの経験から得られた結

          ぼーっとしてたら終わっちゃいますよ

          明日、うどん食べに香川行きませんか?

           日曜の19時。サザエさんが終わったタイミングで提案する彼女に、今週のサザエさんうどんの話だったのか、と思った。ご飯を食べて、なんとなくそのままサザエさんを眺める彼女の隣で、僕は最近ハマっているYouTubeを見ていた。 「うどん食べたいの?」 「うどんは食べたいです、けどうどんのために遠くに行きたいって感じです」  同じ職場で働く僕たちは、大多数のサラリーマン同様土日休みが基本だ。本気で言っている訳ではないということは分かるけれど、その真意は分からない。 「香川でうどん

          明日、うどん食べに香川行きませんか?

          ゴールデンレトリバーも、いいですよね

           最近やけに出てくる犬の話は、どこの誰の影響かは分からないけれど、なにか自分意外の存在が彼女の中にいるということだけは分かった。それくらい生粋の猫派である彼女とは、お気に入りの作家のサイン会で、前後に並んだことで出会った。 ___________________ 「これって、順番回って来ますかね?」  予約不要のサイン会は、インスタや公式LINEで割とちゃんと宣伝されていたおかげか、14時に着いた時にはかなりの列ができていた。本屋の入り口に、終了予定15時半と書かれた看板

          ゴールデンレトリバーも、いいですよね

          毎日が、毎日続くと思うとなんか、怖いですよね

           比較的早めに出社してくる彼女は、1年目の頃から変わらない元気さでフロアに入ってくる。まだ人はまばらで、おじさん達が出社する前のリラックスした雰囲気が、彼女が来ることで一層軽くなった気がした。ひと通り挨拶を終え、隣の席についた彼女は、いつもノータイムで話し始める。クールビズになって少しカジュアルになった服装は、彼女の印象にさらに色を与えていた。 「今日から半袖にしたんですけど、今からしちゃうと8月くらい、死ぬんじゃないかなって思いません?」  こちらから服装に触れるのは、あ

          毎日が、毎日続くと思うとなんか、怖いですよね

          楽しい思い出って2種類あると思うんです

          「思い出した時に、嬉しくなるものと悲しくなるものの2種類」  お気に入りの黄色いソファーで、自分の足の爪を見ながら話しかけてくる。新卒で入った会社をもうすぐ辞める彼女は、絶賛有休消化中で、1日中家にいることに飽きたみたいだった。最初こそ、在宅で働いている僕を邪魔しないようにと色々気を遣っていたみたいだが、それも2週間で終わった。 「悲しくなることもあるんだ」 「うーん、昔の思い出ほど?もう戻れないなみたいな」  それが何か具体的な時期を指しているのか、誰のことなのか、なん

          楽しい思い出って2種類あると思うんです

          途中から見ればなんだってドラマだと思いませんか?

           突然始まった思考の整理は、程よく肯定しながら聞き流すのがベストだ。 「映画やドラマって、主人公の人生の一部しか見ないからドラマだと思うんです」 「自分はドラマにも映画にもならないってこと?」  まあ極論そうですね。掴みかけた核心をあっさり手放すように、汗をたっぷりかいたハイボールを掴んで流し込んだ彼女は、この話をどうしたいのか、考えるだけ無駄な気がした。  ちょっとお手洗い行ってきます。言いながら立ち上がった彼女に道を開けて、ルーティンになっているゲームにログインし

          途中から見ればなんだってドラマだと思いませんか?

          猫って、世界でいちばん可愛い形してるんですよ

           コインパーキングの縁石に沿うように、完全にカラダの力を抜き切った形をしているそれを見つけて、彼女が言った。初めて聞いたときは、分からないなりに、ただすごく猫が好きなんだということだけは分かって、無難な返事をした。 「確かに、可愛いね」  猫は飼ったこともなければ、まともに触ったのもいつだか覚えていない。意識の差なのか、猫を見つけるのが異常に早い彼女は、飲み会帰りに駅から家まで歩く道で、その可愛い形を見つけるたび得意げに教えてくれた。そこから始まる実家の猫のエピソードはも

          猫って、世界でいちばん可愛い形してるんですよ

          “カメラを趣味にしたい”のハードルを下げたい

          「カメラ始めたいんだよね」と思っている人も 「カメラって難しそうだけど興味はあるな」という人も なんとなくその‘カメラ’はデジタルの一眼レフを指している気がする。ここで、必ずしも一眼レフ=デジタルではない、ということを、初めて聞いた人もいると思う。しかし、そういった細かいカメラの種類や性能さらには歴史やテクニックなんか、どうでもいい。早くカメラを手にしてみてほしい。そんな気持ちで、カメラ選びの第一歩「結局どんなカメラがいいの?」を見ていきます。  カメラ、と言ってもその内に

          “カメラを趣味にしたい”のハードルを下げたい

          可愛く歩いてる子が強いんだよね

          「ねえ最近始めたんだけどさ、」 深夜1時 土曜日になったばかり 平日はお酒を飲まない彼女が 唐突に連絡してくるのはもう慣れた 休みの前日は何だかそれを待っている自分もいて 何で待っているかは明確にしたくなくて 彼氏にだったら「ごめん」を付けるようなことを 彼氏にしかしない温度感でやってのける そんな彼女がある意味羨ましかった 他所ごとは考えないようにして 今日も話が3周するまで付き合おうと決めた 「それで今週の日曜日はね、あもう明日だ、明日はね3歳の馬が出るやつなんだけど

          可愛く歩いてる子が強いんだよね

          梨があるところがいちばん安全です

           ダウンジャケットの潰れたフードが なんだか可愛くみえた 新幹線の2人席と3人席の間 まんまるの坊主頭を 100キロはありそうな大きな体にくっつけて 見かけよりも速いスピードで進んでいく その知らない後ろ姿を見送りながら 内心では 他人のフードを思考に入れる余裕があるのかと 余裕があると認識すると なんだか全部大丈夫な気がした _______いつまで保つだろうか 次に不安が押し寄せてくるのは いつだろうか。  好きな本に 又吉の「劇場」があるけれど その中の台詞を思い出す 

          梨があるところがいちばん安全です

          6年って小学生も卒業するよ

          いつか 全部忘れるんだろうか 離れて分かるとかそんなことはないけれど 意外とこんなにも忘れないのか、とは思う 一緒に食べたものも 毎年行った場所も ルーティンやノリも 生活の一部だった 別れると決めて 同棲していた家から出るまでの1ヶ月 それまでと大して変わらず ただ物理的な距離だけはあるような 不思議な時間だった ごはんどうするかの連絡も 映画やゲームも変わらなかった 仕事への憂鬱と未来への不安で 月曜がいちばん情緒不安定だった 朝起きて泣きながら支度する どうしたのなんて

          6年って小学生も卒業するよ