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ブリーダーズカップを観た日


“夢見ましたね”
 インタビューに添えられたその言葉は、切なくて、綺麗だった。

 3連休の日曜日、海外で開催されるレースを観るべく、朝5時半に起きた。やけにソワソワする気持ちを抱えながら歯を磨き、なんだかディズニーに行く前みたいだなと、顔を洗いながら懐かしく思った。テレビを付けると音量が昨日のままで、グリーンチャンネルに照準を合わせる前に、急いで音量を下げた。テレビでは大勢の人がひしめく中を、馬と騎手が通るところが繰り返し放送されている。無料放送に感謝しながら、JRAアプリをスマホで、ネット競馬をタブレットで開き、日本馬の出走があるレースの時間を把握して、コーヒーを淹れた。正直海外の馬はほとんど分からないけれど、日本から参戦する馬や騎手たちの姿を、リアルタイムで観たかった。6時台早々に始まるレースの馬券を買い、なんとなく部屋の電気は付けずにいる。煌々と光るテレビの中は映画のようで、この部屋には浮いて見えた。

 ローシャムパークの力強い走りや、赤の勝負服がチャーミングなフォーエバーヤングなど、日本勢の応援と馬券がそれなりに実った気がしながら、外が明るくなってきた8時45分。11Rを走ったテンハッピーローズと津村騎手は、惜しくも4着だった。素人目に見ても、最後の直線途中まで先頭で来たテンハッピーローズは、今年5月にG1を制した時よりも、たくましく、鮮やかだった。それでも海外の馬は強く、簡単には勝たせてもらえない。1分半は一瞬で、長かった。

 レースも終わり、騎手や各関係者がインタビューを受ける中で、印象的だったのは津村騎手だった。異国で最後まで走り抜いた馬を讃え、G1での勝利は実力に伴ったものだと伝えた。今回の結果にも言及はしていたが、今後の人馬の成長を前向きに宣言していた。
“夢見ましたね”
と、はにかみながら話す津村騎手を見て、漠然と、幸せになってほしいと思った。それは、視聴者が思いそうな余計なものを全部丸めるような一言で、それが言えることも、本人にとってのその夢の重さも、一般人には想像もつかなくて、切なくなった。出場前から、BCは憧れの舞台だと、まさか自分が、とインタビューで答えていた。出ることも勝つことも夢だとすることが、前向きなのかどうかは分からないけれど、淡々と話す姿がやけに印象的で、こちらはただ応援するだけだと身に沁みた。
 謙虚なだけでなく、本質を話す頭の良さもある。その飾らない真っ直ぐなところが、競馬にも繋がって欲しいと思った。今回を通過点として、より大きな舞台で津村騎手やテンハッピーローズを応援したい。でも勝つだけじゃない。これからも良い馬に巡り合って、最高の騎手生活を過ごしてほしいと、テレビに向かって泣いているのは、日曜日の朝には似合わなかっただろう。

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