P&Gの製品はなぜ世界中で売れるのか
今回はP&G、ユニリーバ、ロレアルといったグローバル消費財企業と、日本国内で圧倒的な規模を誇る花王を比較しながら、なぜP&G、ユニリーバ、ロレアルといった企業の製品は世界中で売れ続けるのかということを説明していきたいと思います。
ずばり、結論から言うと
①ブランド力×②オペレーション力×③人材力という3つの変数の掛け算で、消費財は売れるかどうかが決定されると私は考えています。
具体的にそれぞれについて見ていきましょう。
①ブランド力
まずブランド力についてですが、私が定義するブランド力の強さとはあるカテゴリー名を消費者が聞いたときに、1番目か2番目にイメージが頭に浮かんでくるかだと思っています。どういうことかと言えば、例えば「コーヒーショップ」と聞いたときに、「スターバックス、タリーズ」といったイメージです。もちろん各人でそれぞれ思い浮かべたブランドは異なるかと思いますが、基本的に上位5位くらいまでのコーヒーショップにイメージは収まるはずです。
消費財企業に話を戻ると、ブランドが人々のイメージの最初に浮かんでくるかどうかの基準として考えるべきなのが、「10億ドル以上の売上をあげているかどうか」ということだと思っています。これらのブランドはBillion Dollar Brand と呼ばれ、経営陣から特に強く状況が注視されます。東証一部上場の条件はシンプルにすれば、時価総額が500億円以上で、経常利益が5億円以上ということで、この10億ドルブランド単体で東証一部に余裕で上場できるというレベルのものです。
例えばP&Gはこの10億ドルブランドを洗剤のアリエール、シェービングのブラウン、シャンプーのパンテーンなどを筆頭に22も保有しています。一方の花王は1,000億円の売上を超えているブランドは「メリーズ」「アタック」「ビオレ」の3つだけです。
10億円のブランドも、1,000億円のブランドもマーティングなど変動費にかける金額を除けば、かかるコストや人の工数は基本的に同じです。ブランドごとに在庫を管理しPLを作るなどです。売り上げを立てていくうえで、小さいブランドを多く保有するよりも、大きなブランドを少なく保有するほうが規模の経済も働きやすく効率的で利益率も向上します。
どれだけ「カテゴリーキラー」と呼ばれるブランドを作り上げるマーケティング力を持ち、人々が頭の中であるカテゴリの言葉を聞いたときに自然に製品が思い浮かぶかどうかの重要なポイントとなっります。
②オペレーション力
2つ目のオペレーション力ですが、ここでいうオペレーション力は「ある意思決定からそれが実行されるまでのスピード」のことです。グローバル消費財メーカーはFMCG(Fast Moving Consumer Goods)と呼ばれる消費者の好みの移り変わりが激しく、新製品も大量に市場に投入されるビジネスを扱っています。そのため、消費財企業の競争力の源泉がスピード感になります。1のブランド力で述べた内容とも繋がってきますが、Billion Dollar Brandを生み出すためには1国だけでなく「グローバルで売る」という視点が必ず必要です。
ロレアルのスピード感を示す例を見てみましょう。ロレアルパリの泡立たないシャンプーとして発売された「ノーシャンプー」は、南米マーケットで髪質が固い人種向けに人気が出始めていた製品からインサイトを得て製品化が迅速に進められ、瞬く間に世界各国の市場の店頭に並びました。他にもK beautyが世界から注目され始めていることを察知すると、急成長していた韓国ブランドの「スタイルナンダ」の買収に乗り出し、数か月というスパンで買収を完了させています。ある国のマーケットで売れている製品が他国、ひいては他の地域で売れるだけのユニークネスと普遍性を秘めているかを世界各地でアンテナを立て、その製品や要素を取り入れると決定するとすぐに他国の市場で展開できるだけのオペレーション力があることは消費財企業として世界で戦うために大きな要素となります。
翻って花王ですが、日本で開発した製品ブランドを他国で販売するということが主流です。海外売上比率が全体の中で2~3割でその大半がアジア圏で占められるのもそれが要因だと考えられます。真のグローバル消費財企業は「日本で生み出した製品ブランドを海外で売る」という視点ではなく、「世界で売れる可能性が売る製品、またその要素を抽出し製品化する」という視点でブランド開発を行っています。
前提としてグローバルで売れる製品かどうかという視点の有無、そして可能性があると意思決定を行った後、実際に他国に展開するだけのオペレーション力があるかどうかがグローバル消費財企業と花王を分けている重要なポイントとなります。
③人材力
3つ目の人材力については1、2で述べたブランド力、オペレーション力の基盤となり、それぞれが有機的に繋がってきます。消費財企業の活動を端的に述べれば、ブランドをオペレーションにのせ販売するまでを人が管理します。
ユニリーバであれば、APACヘッドクオーターで新卒として採用した人材は1国ではなく、グローバルでブランドを販売するという視点を身に着けるために、最初の2年間の間に4つのマーケットで業務を行うというプログラムを持っています。ロレアルであれば、各地域でタレントプールと呼ばれるその地域の有望な若手を選抜したリストを保有し、人材の各国派遣を行っています。一方、日本企業でGraduate Traineeと呼ばれる全世界で共通の新卒の人事制度があることを聞いたことがありませんし、そういった人材が登用されているケースもほとんど聞いたことがありません。
1国のマーケットに精通していることは大事ですが、それだけでは中長期的に見て消費財企業としての競争力を保つことが出来ないため、次のグローバルヒット製品を生み出すためにインサイトを得られる人材をその企業内で増やすことができる仕組みがあるかどうかは重要なポイントとなります。
以上いかがだったでしょうか。
①ブランド力として10億ドル以上の売上を上げることが出来る、つまり世界中のあらゆる地域に住む人が普遍的に魅力を感じるブランドを作り上げていけるかどうか。
②そういったブランドを作り上げるために、圧倒的なスピードで可能性を秘めた製品を買収したり、要素を取り入れ製品化できるオペレーション力があるかどうか。
③そして、その戦略を描き実際に実行できるだけの人材力を企業内で育てる仕組みがあるかどうかという3点をP&G, ユニリーバ、ロレアルといったグローバル消費財企業は持ち、花王に代表される日系企業は不足しているという考察でした。
他にも戦略コンサルでの学び、日本市場のPEファンドをまとめたnoteを作成しているので、そちらも参考になれば幸いです。
今後もMBA、資本主義におけるキャリアの考え方などを発信していきますので、是非「いいね」、「サポート」をしてもらえると嬉しいです!