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大喜利の答えをショートショートで書く⑧おばあさんが切った大きな桃。 中から出てきた意外なものとはⅡ

k_uma.1999(Instagram)
さんの回答書いてみた。

金銀財宝ざーっくざく!


 おばあさんは困っていた。

 目の前には割れた桃。その中には金銀財宝。それは昔話で成功した老人が手にするタイプのまごうことなき金銀財宝。

 しかし金銀財宝をなにに使ったかどうかは昔話にはまったく記載されていない。

 なので困ってしまったのである。

 数時間前、おばあさんは日課である川に洗濯をしに行っていた。このご時世、洗濯機が家にあるのでわざわざ川に行く必要はないのだが、彼女にとってそれはすでにルーティンになっており、それがボケ防止になっているという自負も彼女にはあった。

 手には洗濯桶と板。あとは小さな手ぬぐいが数点。おばあさんはボケ防止のためにやっているのであって、文明の利器を活用できないわけではない。なので洗濯物は少量で良いのだった。

 しかし背中にはカゴを背負っている。中には鎌が一つ入っている。川での洗濯が終わった後、山へ芝刈りに行くのだ。もともとはおじいさんの仕事だったが、彼は数年前に亡くなってしまった。

 ボケてしまった彼はおばあさんにとって見ていられないものだった。それまでは来世も一緒になりたいと思っていたのに、ボケてした彼の痴態や愚行の数々によって千年の恋は冷めてしまった。おばあさんにはそんな彼のようにならないために川へ洗濯をしに行っているところがあった。

 芝刈りに行く理由はそれだけではない。おじいさんとの思い出の地でもあるからだ。まだ好きだった頃のおじいさんとの思い出の場所で、一緒にした芝刈りをすることで、過去に浸れるのが追い先短い彼女の唯一の楽しみだった。

 しかし、カゴの中に入れて持って帰ることになったのはたくさんの芝ではなく、たった一つの、けれど大きな桃だった。

 おばあさんはちょうど食料を切らしていた。近くのスーパーまでは山を降りなければならない。随分前に免許は返納してしまった。いつぞやの老人の交通事故防止キャンペーンでやってきた役所の人たちに乗せられて返却してしまったのだ。

 彼女はそれをずっと後悔していた。毎週、施設に入れようとする役所の人間が運転するバスが来るが、今日はその日ではなかった。移動販売も団地や住宅街が優先で、山に来るのは夕方を過ぎる。そして大抵のものは残っていない。なので、目の前にどんぶらことやってきた桃は、棚の上からぼたもちな気持ちで持って帰った。

 しかし開けてみれば金銀財宝である。

 おばあさんはお金には全く困っていなかった。おじいさんの保険金もあったし、全く面倒を見にこない孫娘が毎月決まった額を振り込んでくれる。年金もしっかり受け取っている。だからお金には困っていないのだ。

 いや、今は困っている。物理的に。

「お札や硬貨じゃなくって、金や銀とはねぇ」

 そう目の前に広がるのは広く流通している金銭ではなく、金や銀。
「そりゃ、重いわけだよ」と固まった肩や腰を揉んでいるとお腹が減った。金銀が入っていなかった部分だけ食べたが、ほとんど味がしなかったし、する部分があっても桃味の水くらいの薄さ、もしくは金銀によって移った金属くさい味。

 それで空腹を満たしても、心はまったく満たされていなかった。食べた気がしなかった。

 おばあさんは困った。誰かに相談することも考えたが、役所の人間は信用がならないし、孫娘には悪用されそうだし、なんなら毎月の振り込みを打ち切られるかもしれない。老後二千万円問題は有に解決するほどの貯金はあるとはいえ、減っていくのは怖い。

 ネットで検索してみると、まず警察に遺失物として届ける必要があると書いてあった。

 さっそく呼んでみたが、警察はボケた老人の戯言だと思って、気だるそうに、「おばあちゃん、今日もいい天気ですねぇ」とテキトーな笑顔をふりまいた。

 しかし老人の背後に広がる金銀財宝を目にして、その佇まいを直した。かと思えばそれが桃に入っているのを見て、顔をゆがめた。苦痛や嫌悪ではない。確かな困惑であるのが表情から見て取れたので、おばあさんは少し良い気持ちになった。

「信じられません。本当に桃から出てきたんですか? どの辺りの川で、何時ごろですか?」

 日々の日課のこと、おじいさんのボケた話など長い話にも警察は真摯に聞いてくれた。老婆はもうこの人に全て渡してもいいという気持ちにすらなっていたから、冗談でそう言ってみたのだが、警察は「いえ。そういうわけにはいきません。遺失物ですので」と真面目な顔を崩さず、おばあさんから目をそらさず言ってのけた。ますますおばあさんは彼を信用して、託したくなってしまった。彼がもし本物の警察でなかったとしても構わなかった。

 しかし彼はまごうことなき本物の警察だった。彼は幼い頃に両親を亡くし、両親の両親、つまるところ祖父祖母に育てられたのだと言うこと、恩を返すために警察になってこの町に帰ってきたことなどを教えてくれた。

「おばあさん、他に困ったことはないですか」と遺失物届の書類処理が終わった後もすぐには帰ろうとせず話を聞いてくれる、心優しい青年だった。免許を返納して不便なことなどは伝えておいた。

 それからしばらくして、また警察から連絡が来た。

「落とし主は現れませんでした。ですので、いったんお返しさせていただきます」

 声を聞いたとき、おばあさんは一瞬であの警察官だと気づいた。ボケ防止で川へ洗濯と山へ芝刈りに行っていて良かったと思った。

「しかし、これ持っておくのも大変ですよね。換金してお渡しいたしましょうか?」

 彼の魅力的な提案にお願いします、とおばあさんは返す。すると彼は小声になって「本当は警察の業務ではないので内密で」と言う。おばあさんには電話越しで彼がするいたずらな表情が見えるようだった。

 結果として、警察官はまったく不正を働かなかった。換金の手伝いはしてくれたものの、むしろぼったくろうとしてくる業者に警察ですと言って正規の値段で買い取るように仕向けていたし、それで増えた分を報酬として渡そうとしても頑に受け取ってくれなかった。

「受け取らない代わりに、ちょくちょくお話を聞きに伺っていいですか?」と言ってくれる始末だ。

 本当に警官はちょくちょくやってくるようになった。食料に困っていないかと電話がまずかかってきて困っていると答えれば、食材を買ってきてくれ、ご飯を作ってくれるときもあったし、おばあさんが作って振る舞うこともあった。

 その警察官の支えがあって、できたお金と貯金を元手に会社を設立した。亡くなった人やペットをデータで復元し、ロボットや人形などに移し替える技術は、さらに先の未来のネットの中に意識を移住させる技術に応用されるようになるが、それはまた別のお話である。

 警察官は最後までただアドバイスをしたり、おばあさんが事業主だとわかるとぼったくろうとしてくる人に対して正規の取り扱いをさせるようにさしむけるといったことをするだけで一銭も受け取ろうとしなかった。

 おばあさんの死後も遺産として受け継いだのは彼女が住んでいた家だけで、その遺産の全てを町に寄付し、最後まで警察官として、またおばあさんの良き友人として接した。

 おばあさんにとっては桃から出てきた金銀財宝よりも、その優良な警察官との出会いこそが何よりも宝物だった。
 

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