Mitsuki

京都の芸大で文章を学んでいました。 書店員、 文芸創作研究チーム『文芸みぃはぁ』リーダ…

Mitsuki

京都の芸大で文章を学んでいました。 書店員、 文芸創作研究チーム『文芸みぃはぁ』リーダー、 キモ良い短歌を作る人、 小説を書く人 ブックレビューを書く人。 エッセイもはじめました。 お題や感想のコメントお待ちしてます!

マガジン

  • その他作品たち(企画など)

    いろんな企画で書いた文章作品です。

  • 【京都市左京区エッセイ】失われた左京区を求めて

  • ショートショート

    企画で書いたもの、自作のショートショートを載せています。

  • 京都エッセイ

    京都での日々や、自分の過去について書いたものを載せています。

  • 短編小説『印』

    ずっと書きたかった物語の一つ。 『印』がないと村の人だと認識されず、村八分にされる村で、印師をする男のお話。

最近の記事

短編小説『12月の焼き芋ケーキ』

 走りながら考え事をするのは向いてない。そんなことは分かっているのに、私は走りながら考えている。  ケーキを買うべきか、終電に乗るべきか。  今日はなんてったってクリスマス。恋人に会うことが正しいのだと、これでもかと見せつけられる日。終電間際の聖夜だというのに、まだ駅前には人がいた。  誰しもにぶつかってやりたい欲求にかられるけど、それでケーキも終電も間に合わないなんてバカなことになるのが嫌で、全身を駆使してかわしながら走った。途中、ハゲた赤ら顔のおじさんに「おねーちゃん、そ

    • 失われた左京区を求めてVol.3『コミックショック・ロスト・ショック』

       京都には数多くの古書店がある。古本市なども年に何回か行われるので有名だ。  大学生一年生の頃、高野には本屋がいくつもあった。新刊書店が二件。そして古本屋が二件である。そのうち、閉まってしまったのはたった一件。  それが今回紹介する『コミックショック』である。  高野の交差点北東に位置する、そのお店は京都の古書店と聞いてイメージする茶色がひしめき埃が舞っていることが陽光でわかるようなタイプではなく、どちらかと言うとブックオフみたいなタイプの古本屋だった。  縦の長方形のような

      • ショートショート 38 二つの試合

        いただいたお題「試合(スポーツ)」で書きました。  白い円の中で二人の男の子が睨み合っている。しかしそれはすぐに間に立つ男性が持っているボールに移動する。男のボールを持つ手が一瞬下がり、上がる。その瞬間に円の外にいる八人の男の子たちが動き始める。自分のゴール側に走る人、相手のゴール側に走る人、円の近くで弾かれるだろうボールを待つ人。彼らの視線もまたボールにある。  円の中の男の子二人がジャンプする。  ファーストボールに触れたのは相手チームの男の子だった。  瞬間、横から勝

        • 失われた左京区を求めて Vol.2『縦長のミスド』

           大学一年生の頃、仲良くなった友人らといろんなお店で駄弁ってきた。サイゼリヤ、マクドナルド、ビリオンコーヒーなどなど。友人とファストフードやカフェで話すなんて、ど田舎出身の僕からすれば天国のような時間だった。  サイゼリヤの値段以上の料理、マクドナルドの照り焼きハンバーガーの旨さ、カフェでランチというお洒落な行動。都会出身なら誰しもが幼い頃に体験してきたものに、10年以上遅れて触れた僕は、一つ一つが嬉しくて仕方がなかったのを覚えている。  そんないろいろ行ったお店の中でも

        短編小説『12月の焼き芋ケーキ』

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          7本
        • 【京都市左京区エッセイ】失われた左京区を求めて
          4本
        • ショートショート
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        • 京都エッセイ
          1本
        • 短編小説『印』
          0本
        • 読んだ本のレビュー
          8本

        記事

          失われた左京区を求めて Vol.1『やる気のない焼肉屋 やる気』

           僕は京都造形芸術大学(現:京都芸術大学)という大学に進学した。仲の良い友人や後輩、先輩方といろんなところにご飯を食べに行ったものだ。  授業終わり、夕暮れる空の下、大学の階段を降りながら先輩方がやっていたくだりがある。 「やる気のないやる気、行く?」  やる気、とは焼肉屋のチェーン店だ。くだりの中で出てくる『やる気のないやる気』とは高野の交差点を北上したところにある地蔵本児童公園の隣にある店舗のことである。その店舗は名前の割にアンニュイな態度の店員がいて、それに加えて食べ放

          失われた左京区を求めて Vol.1『やる気のない焼肉屋 やる気』

          失われた左京区を求めて Vol.0 『僕と左京区』

           僕は京都が好きだ。なんて言うと、寺社仏閣が好きなのかと思われることが多い。嫌いではないけれど、僕が好きな理由少しだけ違う。さらに細かく言うと、私は京都市左京区が好きだ。さらに細かくすると北は国際会館から、南はだいたい百万遍あたりだろうか。東は北白川通り、西は糺の森あたりだろうか。個人的には御所のあたりも左京区だと思っているふしがあるが、あまり言うとガチの京都勢から批判がきそうなのでこのへんで。  なぜ好きか、そう聞かれたら、青春を過ごした場所だから、に他ならない。  が、

          失われた左京区を求めて Vol.0 『僕と左京区』

          ショートショート 37 ハイライトなのかわかばなのか

           保健室に吹く風は、いつだって黄色がかっていて、でも色のイメージとは違っていつだって冷たい。窓の外側は光で溢れているのに、保健室は電気が消されていて薄暗いからだろう。  他に寝ている人がいるから静かにね、と先生に言われた僕は保健室のベッドの上で寝転んでいた。  騒ぐ余裕なんてない。頭がボーっとする。横になって目をつむっていればすぐに眠れるかと思ったのに、頭痛がそうさせてくれない。別にそうすれば治るというわけでもないのに寝返りをうった。外光にずっと照らされた白い枕が頬にあたる。

          ショートショート 37 ハイライトなのかわかばなのか

          僕にとって音楽は『言葉を届ける手段』

           僕の将来の夢はミュージシャンです。  実際にはなかったけれど、将来の夢の宿題が小中学生の頃にあったら、そんなふうな書き出しだっただろう。  僕がミュージシャンになりたかったのは中学二年生までの話である。  なりたかった理由は二つ。一つは音楽に救われてきたから。そしてもう一つは父親に認められたかったから。  一つ目についてはよくある話だ。おおむねこの言葉で想像するようなことがあった。なので割愛する。  小さい頃から、少し父親が怖かった。それはあまり笑わなかったから。小さい頃の

          僕にとって音楽は『言葉を届ける手段』

          ショートショート 36 タイムループもタイミングを考えてほしい

           タイムループが使えたら、若い頃、そんな話をしていたことを思い出す。そのとき誰といて、どんな顔をしていたか、その細部までは思い出せないが、話した内容は想像に難くない。  いついつにいって後悔を晴らす、宝くじを当てる、そんな夢物語に違いはないだろう。そのとき誰かがそんなにうまくいくのか? たいてい映画や小説なんかじゃ……と冷める発言をしたやつがいたような気がする。  私は今、そのときのことをちゃんと聞いておけばよかったと強く後悔している。 「何してんの! すぐに立って!」

          ショートショート 36 タイムループもタイミングを考えてほしい

          ショートショート35 おじいちゃんは町の変わり者

           僕のおじいちゃんは町の変わり者と呼ばれている。でも、僕はおじいちゃんのことが嫌いじゃなかった。おじいちゃんの家は町のハズレにある洋館で、僕はそこでおじいちゃんと二人で暮らしている。両親が海外赴任の間預かってもらっていた。  初めは数ヶ月と言っていたのが、季節が変わる頃になり、次には年が変わるころになり、今では僕が大人になった頃に戻ってくることになっている。  僕は別に嫌じゃなかった。今の時代、別にネットさえあればいつだって顔を見られるし、声も聴ける。小さい頃は本当は両親は死

          ショートショート35 おじいちゃんは町の変わり者

          ショートショート 34 世間の流行はメゾピアノ

          「若い子の気持ちがわからない」  俺は居酒屋の個室で友人である入江に相談していた。しかし入江は持っていたビールを持ったまましばらく固まった後で大笑いした。 「おい、笑うなよ」 「だって、いつも安い飲み屋でいいとかいうお前がわざわざ個室まで用意して、何を相談するかと思えば、そんなことかよ」 「そんなことってなんだよ」  俺は真剣に悩んでるっだっつうのと、ビールを勢いよく飲み干す。昔はそうするだけで悩みなんてどうでもよくなったというのに、今はむしろ不安が増すばかりだ。こうやって酒

          ショートショート 34 世間の流行はメゾピアノ

          2024/2/12 我が聖地巡礼②もう一つの故郷、愛媛。

           僕の地元は高知県四万十市西土佐というど田舎だということは昨日の日記に書いた。  でも実は僕の生まれについては少し違う。僕の生まれは愛媛県宇和島で、いろいろあって西土佐の祖母の家で暮らすようになった。  と言ってもそんなに遠い場所ではなく、むしろ遊びに行くなら宇和島に行くことが多かったし、なんなら高知なのに愛媛放送が入っていたくらいだ。  だから聖地巡礼をするなら、愛媛県も外せない。  まずは奥野川という山道を車で走る。曲がりくねった対向車とギリギリすれ違うような山道を進み、

          2024/2/12 我が聖地巡礼②もう一つの故郷、愛媛。

          2024/2/11 我が聖地巡礼①小中高とそのあたり

           今日は僕の生まれ育った故郷、四万十市西土佐に恋人を連れて帰ってきた。  名古屋から香川まで六時間夜行バスに揺られ、そこから一時間バスを待って、香川から高知まで二時間、そして高知市から四万十市までまた二時間の計十時間以上かかってようやくついた。  そんな僕らを激励してくれたのは、我が家の犬。塀の上によじ登って、忙しなく動いている。  思わず恋人もかわいい! と大はしゃぎ。荷物も置かないままに犬と戯れ始める。  恋人はほとんど犬に触ったことがなく、うれしそうで、犬も見知らぬ人

          2024/2/11 我が聖地巡礼①小中高とそのあたり

          ショートショート 33 人間失業

          『名作を一文字変えて書く』 という企画で書いた作品です。  仕事を失業した、そう話したときの人の反応は大抵喜怒哀楽に別れる。あんな仕事辞めてよかったよ! なんで辞めたんだ! それはつらかったですね。ほっとしました。  俺もそのどれかだろうなと思った。あとは呆れられるか、無視されるかくらいだろう。  だからまさかハロワで職員から「まだ人間は失業してらっしゃらないですよね?」と言われて、心底驚いた。え? って声に出た。割と大きな声で出た。 「聞き間違いでしたらすみません。人間を

          ショートショート 33 人間失業

          【2023年読んだ本リスト】

          タイトル/作者名/訳者やイラスト 夏休みに、ぼくが図書館で見つけたもの/濱野京子/森川泉 気楽に殺ろうよ/藤子・F・ 不二雄 御社のチャラ男/絲山秋子 10代のうちに考えておきたい 「なぜ?」「どうして?」/近藤雄生 CF/吉村萬壱 3歳語辞典/101 死にたくなったら電話して/李龍徳 N/A /年森瑛 会話を哲学する/三木那由他 くるまの娘/宇佐美りん チェレンコフの眠り/一條次郎 爆弾犯と殺人犯の物語/久保りこ 大林くんへの手紙/せいのあつこ 掬えば手には/瀬尾まいこ

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          ショートショート 32 結婚式にやってきた怪盗

           白い服と温かみのある光。これからの未来の不安なんて微塵も感じさせない笑顔の二人。唯一場違いにも見えるレッドカーペットすら、二人を祝福することに専念している。二人のうちの一人、男女のうちの女性がこちらを見ていっそう微笑む。  私も薄く返した。ここでくしゃっと笑おうものなら、二人に失礼だ。  女性は私の友人だった。小中を一緒に過ごし、高校は別だったが、まさかの大学が一緒だった。それまで互いの家に遊びにいくほど仲がいいというわけではなかったが、偶然が重なり、いまでは互いに親友

          ショートショート 32 結婚式にやってきた怪盗