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「色」と「一文字目」で書く① ウィズレッドパック

「色」と「一文字目から連想する単語」で書く

「赤」×パック料金 (「ぱ」からはじまるもの)

ウィズレッドパック


「やっぱり女の子ですんでねー。いいお家に住まわせたいわけですよ」

「そうは言いましてもね。ていうかみなさんそうおっしゃるんですよ。みなさんがおっしゃるということは、そのねがいがかなう人もいればかなわない人っていうのが生まれてしまうもんで」

「うちの娘が、かなわない側だって言いたいのか、おたくらは」

「いえいえ、そんなことはないんですけども、あくまで可能性があるっていう話ですよ。可能性、かわいいから紹介するとか、ブスだから紹介できないとか、芸能界じゃないんですから、そういうのはないです。皆様平等に扱わせていただいております」

 女性用物件など、例外もありますが、という言葉を、不動産業者Aは飲み込んだ。

 場所は都内某所、まぁまぁ人通りの多いところに立つ賃貸専用不動産会社は今日もそれなりに混んでいる。どれくらいの混み具合かというとラッシュ時間、つまるところ午後の学校終わりから仕事終わりの時間帯、十五時から十九時までの時間は一人また一人と尽きることがない。

 しかし、どのお客さんもそうじて言うことは一緒、それに合わせて言う言葉も一緒、マニュアル通りではないにしても、アドリブに答えられるくらいにはほとんど毎日、同じようなことを耳にし、口にしている。

 家探しのお客さんの条件はこうだ。安い、広い、近い、便利で快適。

 家を紹介する側としては別に高くて不便な物件を率先して紹介しようとしているわけではない。それは仲介業というのはパーセンテージで紹介料をもらうシステムだからだ。10万円の物件を決めても1%なら1,000円の利益。対して10万円の物件を決めて10%だったら一万円である。

 不便な物件を紹介すれば悪評は立つし、次の家探しのときに別の業者にいかれかねない。数年ごととはいえリピーターさえできればなんとも楽な仕事なのだ。悪い物件を紹介して、また再紹介となれば、自分の評価にもつながる。だから働いている不動産屋だって、お客様の要望をすべてかなえたものを提供できるならしたいのだ。

 お客様が男性なら楽だ。男性は風呂トイレ一緒でも文句を言わないし、独立洗面台もいらない。洗濯機が室外でもいいし、最悪共同でもいい。狭くてもいいっていう人は少なくない。最近はそうでない男性のお客様も増えたが、それでも数は少ない。

 そういった男性のお客様の望むことは、アクセスが良くて、コンビニないしスーパーが近いこと、ネットが指定されたもの以外を使っていいかどうか、またマンションの住人全員ででかいルーターを使うシステムでなければいい。それでいて安ければ安いほどいい。これくらいだ。

 これくらいなら東京の主要の路線まで歩いて十分未満でも腐るほどある。

 対して女性のお客様は総じて一緒。風呂トイレ別、独立洗面台必須。一階は下着を盗まれたりといった被害に遭いやすいからダメ。交番が近い方がいい。ウォークインクローゼットは欲しい。それもできれば広めの。男だったらウォークインクローゼットだけで住めるくらいの広さだ。

 令和版ドラえもん生活でもいいという女性は、いないことはないが、たいてい病持ちか、夜職で寝るだけのために家を使う人、つまりは面倒臭い。

 それでいて駅近、激安。あるかそんなもん。ドンキじゃねぇんだぞ、は不動産業者Aをはじめとするこの会社の定例飲み会の常套句だった。

 女性はかわいくてもブスでも、誰もが好条件を求める。

 今不動産業者Aが相対しているのは、かわいい方ではあった。だが、さらに面倒臭いのは、かわいいお客様、もとい彼女らが連れてくるボディガード気取りの父親ないし、兄弟だ。彼らは総じて不動産の話を聞いてくれない。

 そういうごたくはいいから、早く本命の物件を出せよ。騙されないぞ俺は。というスタンスでいらっしゃるのだ。

 そういったお客様へのマニュアルもあることはある。なるべくつかいたくはなかったが、無理は言えない。

「でしたら実はウィズレッドパックというのがありましてですね」

 特殊マニュアル『ウィズレッド』を脳内で開いて、話す。

「さきほど気に入られていたこの物件なんですが」

「そうそう! これ、わたしここいいなって思ってたの」

「でもなぁ、値段がなぁ。これの半分でこの条件ならいいんだけど」

 そんなことできねぇよなぁという娘の父親の目線と、できませんよねぇうるうる娘の目線をいっしんに不動産業者Aは受け止め、わかりやすく口角を上げる。

「それがですね。できるんですよ」

「それならそうと、さっさといいやがれ!」と娘の父親はふんぞりかえりつつも、気持ちが惹かれているのが口の端が吊りあがったのからわかる。さっさと説明しろ。と続く言葉までマニュアルに書いてある通りで不動産Aは苦笑する。

「簡単に言いますと、とっても赤いお部屋に住んでいただく、というだけなんですよ。洗面台とか、お風呂とか、白いイメージがあるもの全てが赤くなるんです」

「えー! それいいじゃん! 私ピンクとか好きだよ!」

「ピンクがかったり、茶色かったり、黒かったりするような赤ではありません。本当に純粋な赤、です」

 彗星かよ、と父親が言った冗談に笑って返すが何の話か、不動産業者Aには分からなかった。

「そこで即契約だ!」

「ありがとうございます!」

 ハンコを押したのを確認して告げる。

「もう後戻りできませんがよろしいですか?」

 一つ一つ丁寧に重要事項を説明する。たいていのひとはこの十分あまりの説明を聞かない。聞いてるふりをして頭に入っていないか、脳内でソーシャルゲームを始めたり、手元の端末でなにかしらしている。

 不動産業者Aはにこやかに説明する裏で、ほくそ笑んでいた。

 本当にみんな総じてバカで助かる。

 後日、その部屋で娘の父親が死んだ。娘は激怒して不動産業者につめよったが、再度『ウィズレッドパック』の重要事項を読み上げると、仕方なく納得した。


 2123年、増えすぎた人口が社会問題になっています。

 増えすぎた人類により衣食住をまともに取れる人は激減しました。富裕層のみが、かつて100年前にはあったとされるものを食べることができ、超高級ブランド『ルニルロ』や『TU』の衣服を纏えるのです。

 賃貸に住むような人間は人権などありませんが。しかしそれでも高い水準のものに住みたい、そんなお客様のためのプランがこちら! 

 『ウィズレッドパック』

 賃貸に住むような、クソ人間。いいえ、人間の皮を被った人形は一人でも多くいなくなった方が世の中のためですよね。

 いい家に住む、その代わりに身内の人間を一人以上殺害する。その代わりにいい生活ができる。

 老人は死することで役に立ち、若い者は、それをみて自分もそうならないようにと努力する。結果的にそれが、素晴らしい社会を作るのです。親も可愛い我が子のために醜い体を捨てて未来に捧ぐ。素敵なプランですね⭐︎

 私たち『帝都リビング』はよりよい社会のために働き、皆様に快適な生活を提供いたします。

 お部屋探しはぜひ『帝都リビング』へ!

 ぜひ『ウィズレッドパック』もご活用ください!

※こちらのパックを利用するには条件があります。保証者は20歳以上、なるだけ歳をとっていてクソ野郎ならなおよし。富裕層の方はご利用いただけませんのでご注意ください。準富裕層の方には審査があります。

「それでは、次のお客様、どうぞー!」

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