大喜利の答えをショートショートで書く⑥ おばあさんが切った大きな桃。 中から出てきた意外なものとは。
おばあさんはツイッタラーだった。
でもスマホは持ち合わせてはいなくて、使いこなせなくて、孫が型落ちだからと置いていった型がだいぶ古い、初期型といって差し支えないThinkpadで、日夜パソコン版Twitterを使いこなしている。
パソコン教室で親しくなったが、蓋を開けてみれば、正しく言えば家にあげてみれば体目的だったおじいさんの悪口と、政治的な不満と、フェミツイートをときにそれぞれまたはときにそれらの不満を無理くりにつなげて発信していた。
炊事洗濯などの家事はロボットがやってくれる。着替えもベッドのボタンを押せばロボットが持ってきてくれる。そいつが洗濯機に放り込んでくれるので、わざわざ川に行かなくなった。
そんなものだから村の人はおばあさんが大病を患って寝ているのだと思った。確かに家に心配してきてみれば、寝たきりになっていると勘違いされてもおかしくなかった。
家のピンポンがなった。宅配便だ。ロボットが全部肩代わりしてくれ、手元まで持ってきてくれた。
差出人は孫。新しいパソコンかとおばあさんは期待した。初期型Thinkpadはこの頃ブラックアウトすることが増えてきていた。せっかく長文を書いている最中にそんなことが起こるのでたまったものではなかった。
おばあさんはロボットに開けてもらおうかとも思ったが、以前設定をいじくってからぞんざいに開けるようになってしまって戻し方がわからない。次に孫が来るまでは、おばあさんは自分で開けるしかなかった。
中を開けると大きな桃が入っていた。おばあさんはがっかりした。心配した村の人が孫に連絡をしたのだった。こんな大きな桃一人で食べるにはなぁと思っていたら、存外に皮が薄い。風船よりは厚いが、桃というには叩いたら軽い音が鳴る。持ち上げてみると軽すぎた。いやそこそこに重いのだが、それは中に入っているものが桃よりも重いのだということがわかる。中身に入ってるものの角が桃を持つ手に当たっていた。
おばあさんは慎重に桃を切る。しかし薄い皮であったためにすぐに半分に割れた。勢い余って中のものに少し刃が当たる。が、傷がつくほどではなかった。
中には梱包材に包まれたノートパソコンが入っていた。Thinkpadの最新型から二つほど型落ちしたものだった。
おばあさんはたいそう喜んだそうな。WordやPowerPointだけでなく、使ったことのないOutlookやAccessも入っている。使う機会はないが、余分な機能をつけても余裕のあるスペックに感嘆の息すら漏れていた。
ノートパソコンを開いたおばあさんは一言。
「インテル入ってる!」
横を通り過ぎたロボットが桃を回収する。ゴミ箱に持っていきながら、そこに入るサイズに圧縮した。
中には孫からの手紙が入っていたが、新しい(型落ち)のパソコンにご執心のおばあさんはついぞ気づくことはなかった。