船の”心臓部” ~機関部設計とは~ 造船のおもしろ豆知識集#5
導入編はこちら↓
造船の設計で分野ごとに担当グループが大きく5つに分けられる、と書いた(↓)のですがその中の機関部についての詳細が今回の内容です。
クルマでも大型船でも、推進力を発生させるエンジンとその周りにはエンジンを動かすための付属する機器が多数あります。それは同じなのですが、大型船の機関室(エンジンルーム)はクルマとはスケールが大きく違います。機関は「推進プラント」ともいうくらいで、まさに「プラント」です。
機関室は3〜4層のデッキ構造で階段で上り下りします。そして、機関室のど真ん中に大きく居座るメインエンジンは2階建てか3階建ての建物くらいの高さがあります。機関室内のそれぞれの機器には乗組員がメンテナンスや点検ができるように階段や通路が設置されています。また、各デッキの天井などには無数の配管が走っています。ちなみにプラント(plant)とは、素材や資源・エネルギーを作り出す生産設備のことで、石油化学プラント、水処理プラント、発電所などがプラントの例です。工業製品を作るための工場(factory)とは区別されます。
「推進プラント」ともいうくらいで、機関部設計はプラントエンジニアリングに似てます。
実は、”モノ”を作るのは、配管、機器を据え付ける台、手すりや通路といったくらいです。他の多数の機器は、機器メーカーが設計製造しており、造船所は”買い物”をしているのです。造船所は雑に言うとそれらの機器を配管でつなげるようなものです。機器については仕様や入り口/出口条件などを指定して機器メーカーに発注します。
機関部設計の仕事の内容は次のようなものがあります。
・機器・・・機器の仕様を決定する。機器メーカとやりとりが多い。図面を取り寄せてチェックする。
・配置(レイアウト)・・・住宅でいう間取り図みたいな配置図を作成する(たとえが雑すぎ?w)メンテナンススペース、配管が通るスペース、人が通るスペースを考慮する。
・配管系統・・・タンク、ポンプ等の機器、弁などを記載してどこからどこに配管をつなぐかという、配管系統図を作成する。プラントを機能させるためにはかなり重要な役目。
・軸系設計・・・エンジンとプロペラをつなぐ太い軸などの設計。唯一、詳細に部材の形状を設計するという、プラントエンジニアではなく「機械設計」らしい担当。
・計装・・・センサ、アラームや自動運転・停止などの設定値を決める。
・3次元での配管経路設計
・配管一品図作成
・機器据付け台、配管のサポート、通路・階段等の設計
受注前の基本設計では、機器、配置、配管系統の上から三つが主要な範囲で、これを一人ないし二人程度でいっぺんに担当します。受注後の詳細設計では、作業量が増えていくので、それぞれの項目について各担当が一人か複数名が担当します。
余談ですが、機器メーカとのやりとりが多いのは機器担当です。メーカから見ると造船所の人っていけいけどんどんなイメージと聞いたことがありましたが、それは機器担当だからかもしれません。技術的知識はもちろん重要ですが、二、三十ほどあるメーカから、いかに正しい図面を早く取り寄せるかが腕の見せ所だったりして、円滑なコミュニケーションの力も大切です。
一方、ほかの担当は、より細かいことへの正確さが求められます(機器担当がいい加減でいいということではありませんが)。一つでも間違うと成立しないし、ほかの担当にも影響するし、間違ったまま気づかずそのまま製作されるとすごい面倒なことになります。
以上、機関部の設計についてでした。
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