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「人生が充実する」時間のつかい方
これは、本著で紹介されているYoutube動画です(翻訳されているものが見つからなかったので、字幕ONでの視聴がお勧めです)。
大学の授業の一コマのようですが、教授は大きなガラス瓶を取り出し、まずたくさんのゴルフボールで瓶の中を一杯にします。続いて小石、その次は砂、最後はビールを入れて瓶の中を一杯にしました。
ゴルフボールは、家族や友人、健康、情熱など、その人の人生において一番大切なもの。小石は仕事や家など、その次に大切なもの。砂はそれ以外の、取るに足らないものすべてを表しています。
大きなガラス瓶を人生に見立て、その限られたスペースを何で満たしていくのか。言い換えると、有限の時間を何に費やしていくのか、優先順位の大切さをうまく表現したパフォーマンスだと思います。
ちなみにビールが何を表しているのかは、ぜひ動画を見て確認してみてくださいね。
自動車業界の大物ヘンリー・フォードは、かつてこう言ったとされています。「事業は利益を追求しなければならない。さもないと、その事業は死ぬことになる。しかし事業を利益のためだけに運営しようとすれば、その事業はやはり死ぬことになる。もはや存在理由がなくなるためだ」
この発言は、事業のみならず、私たち個々人にも当てはまります。人の意識はたいていお金に向いていますが、人生における成功や満足度を決める真の要因となるのは、お金をどれだけ稼ぐかより、時間をどう過ごすかー「やりがいはあったか?」「時間を投ずる価値はあったか?」なのです。
本著では、時間の使い方こそが人生の充実感や幸福感を左右するものであることを前提として、できる限り意図的に、目の前の時間を丁寧に味わうための方法が数多く紹介されています。
お金の使い道は慎重に考えるのに対し、同じく有限の資産である時間には、割と無頓着なことが多いかもしれません。時間はお金と違って稼ぐ必要がないため、有り難みを感じにくく、あたかも無限にあるかのように錯覚しやすい気がします。
一方で、失った時間は二度と取り戻すことはできないため、「時間を無駄にしてしまった…!」という後悔は、お金の無駄遣い以上に辛く感じるそうです。私も、ショート動画をうっかり1時間以上見てしまったときなどに、強い後悔を感じます。
冒頭の動画でいうと、だらだらと動画を見続ける行動は、ガラス瓶に砂を入れ続け、大切なゴルフボールや小石が入るスペースを減らしているともいえます。
著者は、そうした後悔を少しでも少なくするために、まずは今の時間の過ごし方を棚卸しする「時間管理エクササイズ」をおすすめしています。
何に対して最も幸せを感じるかを正確に判断する一番の方法は、毎日何に時間を費やし、そのときにどんな感情を抱くかを1〜2週間記録することです。このエクササイズを行うことで、幸せに感じるだろうと自分で思っている活動が、果たして本当に幸せをもたらしているのか把握できます。
仕事でよく行うタスク管理は、時間をいかに効率的に使うかが目的ですが、この時間管理エクササイズは、自分が本当に大切にしたい時間を「意図的」につくることが目的です。
私もしばらくこの時間管理エクササイズに取り組んでみましたが、テレビやスマホに費やしている時間が想像以上に長いことがわかりました。
特に、仕事から帰宅して「ちょっとだけ休憩…」と思って見始めたテレビを、だらだらと見続けてしまう割合が多かったです。休日はそこまでの割合ではなかったので、平日の夜は、一日働いた脳疲労で判断力が低下しているのかもしれない…と感じました。
死んだあとにあの世みたいな場所があったとして、「これは、あなたが人生で何にどれだけの時間を費やしたかを表した円グラフです」と、神様みたいな人から示されたら、結構な割合をテレビやスマホが占めていると思いますので、それは嫌だな…と思います。
また、このエクササイズでは、何をしたかの隣に、そのときの感情を数値化して記録するのですが、帰宅後にテレビを見て楽しめているのはせいぜい最初の30分くらいで、あとは惰性で眺めているだけであることもわかりました。
このエクササイズを通して、今やっていることに対して、自分の感情はどういう状態なのか、確認する意識が芽生えたように思います。
また、自分が大事にしたい時間も少し見えてきたと思います。出勤前にカフェで読書したり、noteの記事を書く時間は、それ自体が大事な時間ですし、出勤前に心を整える時間としても大事なものになっていると感じました。
これまでは30分ほどしか確保できていませんでしたが、エクササイズ後は1時間以上は確保できるよう、生活リズムを見直すきっかけにもなっています。
記録する作業がはじめは少し面倒に感じるかもしれませんが、普段自分がどういう気持ちで、どういう時間の過ごし方をしているかを確認できる、とても良いエクササイズだと思いますので、気になる方はぜひ取り組んでみてくださいね。
とはいえ、記録することがどうしても面倒な人もいると思います。そんな方のために、もっとお手軽な方法も著者は提案してくれています。
ここ2週間を振り返り、こう自問してみましょう。「一番のときめきをくれた活動は何だった?」
これはちょうど、お片付けの達人である近藤麻理恵による、家を片付けるときのアドバイスに似ています。彼女は服を一つひとつ手に取り、それが心に語りかけてくるか、ときめきを感じるか、自問するようアドバイスしています。感じなければ、これまでありがとうと感謝し、手放します。
でも、これは単に着古したTシャツだけに当てはまるわけではありません。最も貴重なリソースである時間をどう使うかを見極める際にも、同じ質問が使えます。
ときめきをくれた活動。
大切な人と過ごす時間だったり、キャンプやハイキングで自然の中で過ごす時間、音楽や絵画など芸術に触れる時間、文章を書いたりDIYで何かを創作する時間など、人それぞれだと思います。
仕事や家庭の用事で忙しく、この2週間でときめいた記憶なんてない…という方がいれば、その場合は2週間という縛りはなくていいのかなと、個人的には思います。
最近では子供(Kid)と大人(Adult)を合わせた「キダルト」という言葉もあるように、子供の頃にときめいたものを、大人になって改めて趣味にする人も増えてきているようですので、学生時代や子供の頃までさかのぼって「ときめき探し」をするのも良さそうですね。
このとき、「今さら子どもの頃の遊びなんて…」「こんなことしても何の役にも立たないし…」「こんなの人に言えないな…」などの心配が浮かんできても、放っておきましょう。自分が何にときめいていたか、自分の心に素直になると良いと思います。
ある研究者らが、人々に今抱いている後悔について聞いたところ、後悔には2種類あることがわかりました。すべきではなかったことに関する、「した後悔」。そして、すべきだったことに関する、「しなかった後悔」です。
どちらも同じくらいよくあることですが、この2種類の後悔は、時間的にはっきりと異なる軌道を描きます。短期的には、「した」方がより多くの後悔を生みますが、長期的には、「しなかった」方がより多くの後悔を生みます。
「した後悔」の方は、何かしら悪い結果が出ているので対処せざるを得ず、比較的短期間で済みますが、「しなかった後悔」は結果がわからないため、長い間引きずる傾向があるようです。
また、「大きなミスをしてしまった…!」「あんなこと言わなければ良かった…」という「した後悔」は、ミスのリカバリーを誠実に行うことで逆に信頼が高まったり、ちゃんと謝って自分の真意を丁寧に伝えることで、お互いの理解が深まることもありますよね。
思えば何かやらかしてしまった後悔というのは、いつの間にか笑い話になっているものも多いかもしれません。
一方、「しなかった後悔」は、何しろ「していない」ので、結果がありません。想像するしかないので、いつまで経っても答えは出ません。
著者は大学のクラスで生徒たちに「憧れの年長者へのインタビュー」という課題を出しました。その結果、年長者が人生で最も誇りに思うことの上位には「家族との強い絆を育んだ」「キャリアと子育てを両立した」「自分の道を進んだ」など、いわば「したこと」が多く挙がりました。
反対に、年長者が最も後悔していることの上位には、「家族と充分な時間を一緒に過ごさなかった」「学問や職業上の可能性を追求しなかった」「自分の道を進まなかった」など、「しなかったこと」が多く挙がっています。
どんな人生が幸せか、その答えは人それぞれだと思いますが、年長者の経験や、その経験をどう感じているかを知ることは、私たちに大きな示唆を与えてくれると著者は言います。
私たちも、両親や祖父母など、身近な年長者に「最も誇りに思うこと」「最も後悔していること」などを質問してみると、面白いかもしれません。
また、こうした人の内面を問うような深い質問は、人間関係にも良い影響を与えてくれるようです。
社交的な活動で一緒に過ごす相手との関係性の質を上げる方法として、会話の内容を深めるという方法があります。親しい関係を構築するには、自己開示をお互いに高めていくことがきわめて重要です。自分に関する情報(例:自分の経験、今何を考えているか、感じているか)、相手の経験を知るために積極的に耳を傾けたりすることで、相手に自分を知ってもらい、相手を知ることができるため、本物の友情が育つ可能性が高くなります。
著者はクラスの生徒たちを二人一組にした後、会話するタスクを与えます。
まずは名前や出身地など、当たり障りのない質問。次に趣味や目標、世界の行きたい場所やその理由など、少し掘り下げた質問。最後は、より個人的な質問をします。
「あなたは人と気軽に会える方ですか、それとも苦手ですか?それはなぜですか?」
「直近で孤独を感じたときの話を聞かせてください」
「あなたが一番恐れているのは何ですか?」
「最近成し遂げたことで誇りに思っているのは何ですか?」
こうしたやり取りを重ねることで、クラスではほぼ毎回、新たな友情が芽生えたり、もともと友人同士だった場合はより距離感が縮まったりすると、著者は述べています。
これは「人間関係親密性誘発タスク」と呼ばれており、人のつながりを強める効果があることを証明した研究もあるようです。
家族や友人、毎日顔を合わせる仕事仲間でも、そこまで深い質問を交わすことはあまりないですよね。飲み会の場などでふとしたやり取りから仲が深まったりするのも、知らず知らずしている「人間関係親密性誘発タスク」のような質問がきっかけなのかもしれません。
著者は家族や友人、同僚など、人間関係を育む時間を最も大切にすべきと、繰り返し述べています。大切な人や、新たに知り合った人との関係性を深めるヒントとして、とても印象的な内容でした。
本著には、冒頭でご紹介した「時間管理エクササイズ」をはじめ、時間の過ごし方を見つめ直すきっかけとなるワークがたくさん盛り込まれていますので、興味がある方はぜひ手にとってみてくださいね。