Cassis / the GazettE
私は、既存の曲の歌詞に自分の思いを乗せることが多い。
家で歌ってる時。カラオケで歌ってる時。
それが普通だと思ってたけど、そうでもないらしい。
「男は音で曲を聴くけど、女は歌詞ばかり気にする」
と、ツッコミどころしかないセリフを吐いたのは、私にv系を教えてくれた元彼である。大学時代に少しだけ付き合っていた元彼。言われた時は、かなりへこんだ。へこんだけど、それの何が悪いんだろう、と思った。むしろ、歌詞を無視して音だけを聞いたら、もうそれは歌である必要がないんじゃないだろうか。
確かに当時の私は、音、といえばメロディーが好きかどうかくらいしかなくて。基本、歌詞とメロディーで曲を好きになっていたし。失恋したら失恋ソングを思い切り歌うし、好きな人といるときは、愛を誓うような歌を歌う。
今でもそれは変わらない、音のかっこよさとか感動もあるけど、歌詞がある曲は、それなりにその歌詞に意味があると信じている。
歌は、創作者の表現した結果だけど、私たち聴き手に寄り添ってくれるものでもある。
*
というところで、標題の話。
v系が好きな人で知らない人はいないだろう、the GazettEというバンドがいる。v系を知らない人でも、the GazettEは知ってる、という人も多いんじゃないかと思う。SHIVERという曲は黒執事のOPでもある。
ガゼット。
私は、めちゃめちゃファン!という訳ではない。「ファンじゃない」というよりは、「ファンなんて名乗れるほどの者ではない」という感じ。好きな曲は12,3曲はある。うん。最初に歌えるまで覚えた曲は東京心中。笑
音源としてはアルバム6枚?分くらいを持っている。
件の元彼と、後輩と、そして夫が。たくさん音源をくれたので。
上記3人、皆ガゼットが好き。一番かはわからないけど、元彼のPCの壁紙がガゼットだったことは記憶している。
それだけすごいバンドなんだ、という印象。あと正座ヘドバン。
人生で1回はライブに行ってみたいな〜と思っているバンド。
ガゼットの楽曲で、「Cassis」という曲がある。カシス。
私がこの曲を知ったのは、元彼とカラオケに行った時。元彼が歌っているのを聞いて、Cassisを好きになった。
歌詞を全部載せたいくらいだけど、抜粋すると。
ずっと繰り返してた ずっと悲しませてばかりだった
きっとあなたさえも傷付けて 僕は動けぬまま
あなたに触れる事が 何故 こんなに苦しいのですか?
きっと同じ事を繰り返しあなたを失ってしまうのが怖かったから
明日あなたの気持ちが離れても
きっと変わらず愛している
明日あなたに僕が見えなくても
きっと変わらず愛している。
I will walk together, the future not promissed
It keeps walking together, to the future in which you are...
これを聞いた時は、彼が歌詞より音を重視する人だということも、歌詞に思いを乗せない人だということも、愛しているなんて言わない人だということも、わかってた。
わかってたけど、万一。少しでも思いが乗ってたら。なんて、嬉しいんだろう、と思って。勝手に嬉しくなったのを覚えている。
それから、Cassisは私の大好きな曲になった。
真っ直ぐにただ愛を誓うものではなくて。過去に色々あったけど、それを乗り越えていけるような。言葉。
私がCassisを知ってから数ヶ月が経って。大学で彼が所属している軽音サークルのライブがあった。彼がギターを弾くライブを見るのは2,3回目だった。
このライブに出演するために結成された1回限りのバンド。なんの曲をするかは全く聞いてなかった(実際は開演前に裏方の友人にネタバレされたけど)。
彼のバンドの何曲目か。Cassisが始まった。友人にネタバレされた時にびっくりしたけど、実際に流れ始めて、本当にCassisをやるんだ、と思って嬉しくて泣いてしまった。
ボーカルは彼ではない。
それでも嬉しかった。
バンドメンバーには私が知らない人もいる。確実に、Cassisの選曲理由は私じゃない。誰も私の為なんかにやってない。そもそも、彼は歌詞に思いなんて乗せないんだから。
わかってるけど。嬉しかった。
明日あなたの気持ちが離れても
きっと変わらず愛している
こんなことを言うとしたら私の方だろうこともわかってる。
でも嬉しかった。その気持ちだけは覚えている。
確か、このライブの後、それぞれの帰省があって2週間くらい会わなくて。
ライブから約2週間後、私は振られた。
ライブのタイミングと選曲があまりにも残酷だっただけ。多分、ライブの時点では彼はもう別れる事を決めてたと思う。
だからやっぱり、本当に、Cassisをやったことに深い理由はなくて。メンバーが皆知ってる曲だったとか、やりたかったとか。もしかしたら他のメンバーが誰かに向かって演奏したかったとか。たまたまそこに、元彼がいただけ。
それでも嬉しかったから、嬉しかったから、軽いトラウマになった。
カシス、ってベリーっぽい果物で、私は純粋に好きな味なんだけど。「カシス」って文字を見るだけで、その一連の事を思い出してしまうようになった。
友達と入ったケーキ屋さんで、私の大好きなマカロンが並んでいて、どれを買おうかな…って見ていくと「カシス」があって数秒固まる。
カシスソーダもカシスオレンジも。
「見たくない」っていうんじゃなくて。思い出す。そしてまだ好きだったから、選んじゃう。感傷に浸るタイプだったから尚更。
一定期間、そんな感じだったと思う。カシスに異常反応する日々があった。
それが大学2年の時で、3年になって、そんなことを知らない1年が入ってきた。「Versaillesが好き」で意気投合した後輩男子と、現夫である。
人見知りの私だったけど、その辺の後輩らが仲良くしてくれていた。
そして初めて、その辺のメンバーとカラオケに行った時。衝撃を受けた。夫、めちゃめちゃ歌が上手い。
軽音サークルではギターを弾いてるけど、普通に歌が上手い。何故ボーカルしないんだろう。
片思い中だった私は、ますます惹かれた。もうそろそろ、元彼は過去になりかけていた。
夫=彼は、the GazettEの未成年という曲を歌っていた。このカラオケで初めて聴いたけど、耳に残る曲だった。この人もthe GazettEが好きなのか、と思った。
カラオケの帰り道、二人でthe GazettEの話をした。共通の話題は嬉しかった。
そこで私はCassisの話をする。どの程度話したのかは正直覚えていない。Cassis知ってるよ、かもしれないし、元彼とのトラウマ、まで話したかもしれない。元彼が彼らの軽音の先輩であることを話したかどうかもわからない。
ただ、その話をした時に彼が言った言葉は鮮明に覚えている。
「Cassisを歌うのは俺とルキだけでいい」(※ルキ:ガゼットのVo)
まぁ、冷静に考えるとよくわからない。酔ってはいたと思う。たまにこの時の話を二人でするけど、二人ともよく覚えていない。
ただ、当時の私はやっぱり嬉しかった。別にまだ付き合ってもない、二人だったけど。彼が何故そんな事を言ったのか?様々な解釈を考えてはときめいていた。
新しい恋に進みつつも、中々忘れられなかった元彼とCassisは、彼のこの一言で完全に思い出になった。私の中で「Cassis=元彼」だったものが、「Cassis=彼」に変わった。塗り変わった。
寄り添う事で拭おうとした 忘れ切れなかった日を
あなたは何も聞かずに この手を握ってくれたね
そんな歌詞が響く。
私に好意を寄せては去っていく人。私は、ここに居ただけ。なんで向こうから来たのに去っていくんだろう。私ばかり好きになってしまって。思いだけ残して。ずっと、そんな恋だった。
改めて歌詞を見ると、これは歌ってほしい歌じゃなくて、私が歌う歌だ。色んな過去があって、彼を傷付けてしまったこともあるけど。二人なら信じ合える。やっと、乗り越えられた。もう繰り返さない。
Cassis
今では、ドライブでかかったら二人で歌う曲。ずっと大好きな曲。