人生のやめどきは別のもののはじめどき!?〜『最期はひとり』
◆上野千鶴子、樋口恵子著『最期はひとり 80歳からの人生のやめどき』
出版社:マガジンハウス
発売時期:2023年7月
NPO法人「高齢社会をよくする女性の会」理事長の樋口恵子と社会学者・上野千鶴子の二人が様々なやめどきを語り合いました。家族のやめどき。人間関係のやめどき。仕事のやめどき。自立のやめどき。人生のやめどき。
本書は2020年に刊行された単行本『人生のやめどき』の増補版。新たに行われた対談が一篇追加されています。
例によって年長者にも遠慮のない上野の姿勢が対話に良き緊張感をもたらしています。
印象に残ったのは、健康寿命の性差、フレイル(虚弱)期の性差をめぐる二人の解釈の相違。女の方がフレイル期が長いのは癪だと樋口が言うのに対して、上野はフレイルな状態で生き延びていける女の生命力を肯定的にみています。後者の感想の方が自然なものだと私は思いますが。
介護などエッセンシャルワーカーの地位向上を主張する二人の意見にはもちろん同感ですが、その場合の財源として、上野が消費税率アップを第一に挙げていることには賛成できません。国民負担率を上げることは必ずしも反対しないけれど、税目は他にもたくさんあるのにこういう時に消費税を真っ先に想定する言論人が多いのは何故でしょうか。一円二円を節約して毎日を生きている貧困層の苦しみを知らぬはずはないでしょうに。
追加された対談では、上野が「初の転倒体験」を報告したのに対して、樋口は「転倒適齢期」と受けて対話が始まります。転倒して骨折したのをきっかけに急激に心身ともに衰えていく高齢者を何人も見てきたけれど、上野もいよいよその領域に足を踏み入れたということでしょうか。
コロナ禍で一般化したオンライン化のメリットについて上野が力説しているのは自然な流れですが、その文脈で「テクノロジーの勉強にやめどきはございません」「ICTは弱者のツール」と述べているのにも同感です。
また樋口が「ワーク・ライフ・バランス」にケアをプラスして、ワーク・ライフ・ケア・バランスの必要性を指摘しているのも卓見というべきでしょう。「人生のやめどき? それは別のもののはじめどきでしょう」という樋口のあくまで前向きな発言には敬服するしかありません。