自己決定の実現に向けて〜『沖縄は未来をどう生きるか』
◆大田昌秀、佐藤優著『沖縄は未来をどう生きるか』
出版社:岩波書店
発売時期:2016年8月
大田昌秀・元沖縄県知事と久米島に母方のルーツを持つ作家・佐藤優との対談集。雑誌『世界』2009年1月号号から2010年年9月号に掲載されたものがベースになっていますが、末尾には2016年の対話が収録されています。
江戸時代の琉球処分から太平洋戦における沖縄戦、戦後の米軍占領時代から日本復帰にいたる歴史をたどりながら、沖縄における独立論の系譜や復帰運動のあらまし、中央政府との関係などにも言及しつつ、これからの沖縄のあるべきすがたを模索するという内容です。
大田は鉄血勤皇隊として沖縄戦を体験したことが沖縄の問題を考えるうえで原点になっていることを繰り返し語ります。軍隊というものは必ずしも臣民を守るものではないのだと。沖縄としての主体性やアイデンティティをいかに確立していくかを大田は研究者としてまた政治家として常に考えてきました。
米占領下では沖縄はいうまでもなく憲法は適用されませんでした。米軍が勝手に公布する布告・布令などによって統治が行なわれていたのです。それだけに「平和と民主主義を基本原理とする現行憲法への執着は、他よりもいちだんと強いように思われます」と大田はいう。佐藤の言葉でいえば「沖縄復帰運動は、自らの権利を日本国憲法という媒介を通して実現するものとして位置づけるという、リアリズム(現実主義)」なのです。
しかし、日本復帰後の沖縄が自由や民主主義を充分に獲得できなかったことは周知のとおり。むしろ米軍基地は占領時代よりも増大しました。外務省沖縄事務所には暗号装置がかかるような電信施設がありますが、これは海外公館と同じ体制になっていることを意味します。その点では植民地的な統治が未だに続いているともいえます。
沖縄県民が今行なっている政治的意思の表明はそのような歴史の蓄積のうえに為されていることを忘れてはならないでしょう。佐藤の発言は随所に大田への敬意をにじませて印象深い。体験に裏打ちされて絞り出される大田の言葉と、時にアカデミック、時にポリティカルに返していく佐藤の言葉とがうまく絡みあった含蓄に富む対談といえるでしょう。
カントが言った永遠平和だって、当時、戦争が続いているのに誰も実現するとは思わなかった。しかし、カントが永遠平和を唱えることによって、少なくとも二〇世紀には不戦条約もでき、国際連盟から現在の国連ができて確実に進んできているのです。だから、夢や理想を絶対に軽視してはいけない。(p62、佐藤)