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市場原理が支配する時代に抗して〜『図書館には人がいないほうがいい』

◆内田樹著、朴東燮編訳『図書館は人がいないほうがいい』
出版社:アルテスパブリッシング
発売時期:2024年6月

公共図書館の民営化が進んでいるらしい。書店やカフェを併設して図書館の利用客にいかにカネを使わせるか、営利企業が知恵を働かせているのです。
──いやいや、そもそも図書館は収益性や効率化、市場原理で営まれる空間ではないのだ、という当たり前のことを力説しなければならない時代になってしまいました。バカな政治家を選び続けると文化的インフラはやせ細っていきます。

本書は多産で知られる内田樹が図書館や書籍、出版文化について述べた文章を集めたものです。

図書館は自分の無知を自覚する装置だと内田はくりかえし力説しているのが目をひきます。「そこに入ると『敬虔な気持ちになる』場所」だとも。当然ながらその空間の価値は集客力や効率性で測ることはできません。

書物の尊厳を傷つけるなというフレーズに思わず膝を打ちました。なるほど「尊厳」とはこういう論件にも使える概念だったのかと再認識した次第。権力者がしばしば行う「焚書」という行為が激しい恐怖を感じさせるのも尊厳と関係があるでしょう。

 ……書物を手荒に扱うことに対しては強い心理的抵抗が生まれます。それは書物が私物であると同時に公共財でもあるからです。(自動車とはそこが違います)。書物は潜在的には「みんなのもの」です。公共の場に本が置いてあれば、誰かが手に取り、場合によっては何百人、何千人、何万人がそこからそれぞれ異なる読書の愉悦を引き出すことができる(かも知れない)。
 だから、僕たちは「焚書」というふるまいに激しい恐怖を感じるのだと思います。(p301)

書物に尊厳があるとすれば、それはその公共財的な性格に強く依拠したものに違いありません。書物をめぐるこうした内田の意見に全面的に賛同したいと思います。

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