〈抵抗者〉、〈異端者〉に続く第三弾〜『時代の反逆者たち』
◆青木理著『時代の反逆者たち』
出版社:河出書房新社
発売時期:2024年2月発行
青木理のインタビュー集としては『時代の抵抗者たち』『時代の異端者たち』につづく三冊目になります。李琴峰、中島岳志、松尾貴史、国谷裕子、指宿昭一、奈倉有里、斎藤幸平、栗原俊雄、金英丸。今回も登場人物は多士済済。
台湾出身の作家・李琴峰は国際社会における台湾の微妙な立ち位置を指摘した後、嫌韓嫌中を唱える日本の政権や保守の人びとについて、台湾の反中的な感情を利用しているだけだと指摘しているのは耳が痛い。
中島岳志はみずから近代保守思想の立場を明らかにしており、「時代の反逆者」という括りに収まる人物とは到底思えないのですが、「永遠の微調整」の必要性を力説している点に良くも悪しくも中島の考え方が表れています。
指宿昭一は難民や外国人労働者の支援に奔走している弁護士。ウィシュマさん死亡事件の経緯を詳説して、日本にとって外国人政策が治安政策となっている点を厳しく批判しています。今や日本社会は外国人労働者の存在なくしては回りません。その重要な労働力=人間を治安対策の対象とし続けているかぎり、日本社会にまともな未来が訪れることはないと心から思います。
ロシア文学者の奈倉有里は、ロシア人の作家が「言うべきことを言うために国外に逃れるか、黙るかの道しかなくなっている」現状を具体的に述べていて非常に参考になりました。
斎藤幸平との対話は私には最も興味深いものです。かねてから資本主義の限界を指摘し脱成長的なコミュニズムを構想しているマルキストですが、青木が「マルクスにこだわる必要があるのか」と突っ込むくだりはとりわけスリリング。それに対して斎藤が「コモン」という発想が加えられたのはマルクスを読んだからと答える場面が印象深い。マルクスは古くて新しい思想家であり、コミュニズムが単なるお題目ではなく未来社会の指針になりうることをあらためて感じさせる対話になっていると思います。
このほか、批評性のある芸能活動を力説する松尾貴史、プロフェッショナルな情報発信の重要性を指摘する国谷裕子、戦地に倒れた兵士の遺骨収容や空襲被害者への補償などの問題を負い続ける新聞記者の栗原俊雄、戦前戦中の日本統治によって引き起こされた被害について研究・運動を続ける金英丸……などなど他の人の談話もそれぞれに個性や特長のにじみ出た内容です。
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