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在宅ひとり死は可能か!?〜『おひとりさまの逆襲』

◆上野千鶴子、小島美里著『おひとりさまの逆襲 「物わかりのよい老人」になんかならない』
出版社:ビジネス社
発売時期:2023年5月

社会学者と介護事業27年の現場のプロが熱く語り合う。二人の意見は時に対立もみられますが、大枠においては認識が一致していて、読み応えのある白熱のトークが展開されています。

上野千鶴子は2012年に『在宅ひとり死のススメ』で、おひとりさまでも最期まで在宅で過ごせるようになるためにはどうすればよいかを利用者の立場から論じました。それに対して「そんなの無理」と言ったのが小島美里です。

本書のメインテーマといえるその論点は後述するとして、前半部でまず上野が団塊世代のエイジズムを指摘しているくだりが興味深い。具体的には「役に立たなくなった人間に対する差別感」としてそれはあらわれるといいます。彼らが年を取って障がいが固定したとき、障がい者手帳の取得を拒否するケースがあるというのです。「あの人たちと一緒にされたくない」と。つまり障がい者と高齢者の間に壁がある。その話を受けた小島の発言が素晴らしい。

 私はエレベーター設置運動のときに、車椅子の友人に付き添って駅まで行きました。彼らがほんとうに体を張って駅のエレベーターが設置されたんです。今の高齢者はそのことを知らない。介護保険も自立支援も、障がい者自らが勝ち取ってきたものの上に成り立っているじゃないですか。この本でも、ここはとくに強調してほしいのですが、彼らがどれほどの思いをして築き上げてきたところに私たちの暮らしが乗っかっているかということに気がついてほしい。(p74)

 ……ほんとうに命懸けでした。自らの体を投げ出して、交通権を獲得していった人たちがいて、今、駅のエレベーターやワンステップバスが実現したんです。その人たちのおかげで、私たちが高齢者になった今バスに乗りやすくなったのです。団塊世代の人たちは何ごともなく働いてきたかもしれないけど、これからあの人たちがつくったもののおかげをこうむって生活していくんだということをぜひ自覚してほしい。(p74〜75)

さて冒頭で紹介したメインテーマをめぐる議論へと話をすすめましょう。上野は2000年に導入された介護保険制度を高く評価します。介護保険23年間の歴史は、確実に日本の介護現場の人材とサービスを進化させた、と。だからこそ在宅ひとり死も可能という選択肢が登場したというのが上野の認識です。

対して小島は「進んだ認知症のある人が自宅で死ぬのは、制約の多い今の介護保険制度では、ほぼ不可能」といいます。ただし自分自身は「できることなら在宅ひとり死を望みます」。

二人の考えにさほど隔たりがあるとは思えません。問題はどこに力点をおくかでしょう。上野は在宅ひとり死は理論的には可能だといい、小島は現場の経験からその困難を強調する。「訪問ヘルパーの絶対数が足りないので、必要なだけのケアを入れられない状況が起きてい」るという小島の現場からの声は切実です。

いずれにせよ、介護保険制度は導入以来いかに骨抜きにされてきたかという点では二人の認識は重なりあっています。国はあの手この手で介護保険の利用抑制を図ってきました。2022年秋、「自己負担の標準二割化」「訪問介護、通所介護の総合事業化」などを盛り込んだ「史上最悪の改定」が目論まれようとした際に、上野や小島は手を携えて抗議のアクションを起こします。その結果、改悪の内容は「先送り」されました。しかしあくまでも「先送り」なので、いずれ制度改悪の動きは再燃するでしょう。

棄民国家ニッポンの姿をきちんと見据えたうえで声をあげ、介護の現場を知らない政治家にはノーと言わねばなりません。

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