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天皇制と立憲デモクラシーを掲げて〜『国家は葛藤する』
◆池田清彦、内田樹著『国家は葛藤する』
出版社:ビジネス社
発売時期:2024年11月
過激なリバタリアンを自称する生物学者の池田清彦とフランス文学・哲学、武道論を専門とする内田樹の対談集。政治、明治以降の近現代史、教育……などなど話題は多岐に渡ります。内田がよくいう「与太話」をざっくばらんに繰り広げた記録とでもいえばいいでしょうか。
天皇制と立憲民主政という矛盾した二つの統治原理に引き裂かれているのが日本の偉大さだと内田はいいます。書名の「葛藤」にはそういう含意があります。分かったような分からんような話ですが、両者ともに維持すべきという結論ならありふれた現状追認論でしかないでしょう。
池田のいう「国家の葛藤」とは、戦争放棄と防衛という相反する理念の間で葛藤して、その時々の最適解を探す努力が国民を幸せにする道という議論に凝縮されています。率直にいってこちらもありふれた憲法講釈です。
あらためて強く感じたのは、内田は骨絡みの観念論者だなぁという印象です。世の移り変わりを経営者や消費者の「マインド」の変化で説明したがる思考様式はもう死ぬまで直らないのでしょう。
池田の共産党や共産主義に対する偏見にも辟易させられました。生物学者が人前で天下国家を語るなとはもちろん言うつもりはありませんが、本書での発言は総じて内輪の雑談にとどめておくべき浅薄な内容だとは申し上げておきます。