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出会う人よりも出会わない人の方が多い人生における想像力〜『「今、ここ」から考える社会学』

◆好井裕明著『「今、ここ」から考える社会学』
出版社:筑摩書房
発売時期:2017年1月

『排除と差別の社会学』『戦争社会学』などの著作で知られる好井裕明による社会学の入門書。ちくまプリマー新書の一冊ということで、はっきり若い読者を想定した書きぶりです。

導入部で6人の著名な社会学者を紹介して、本書の基礎となる社会学の方法や問題意識を提示しています。行為の社会性に注目したマックス・ウェーバー。相互行為に焦点をあて闘争の社会学を論じたゲオルグ・ジンメル。「構造」という視点から秩序や道徳を考えたエミール・デュルケーム。主我(I)と客我(me)のダイナミクスによる自己の形成を考えたジョージ・ハーバート・ミード。「日常生活世界」を再発見しそれを重要な課題としたアルフレート・シュッツ。互いに差異をもった「人々の方法」論としてエスノメソドロジーを提唱したハロルド・ガーフィンケル。

書名に使われている「今、ここ」はシュッツから引用したものらしい。ただし本書の解説を読んでも、私には今ひとつピンとこなかったのですが。

この世界は、私という人間存在を中心として空間的、時間的に位相を変えて構成されています。そしてその世界のゼロ点であり、意味を生きている私の存在を確認できる原点が「今、ここ」という瞬間なのです。(p36)

この箇所に限らず全体を通して理念やお題目が先行していて、失礼ながら私にはやや退屈な読み味だったというのが正直なところです。
スマホを中心としたIT時代の考察も紋切型の域を超えているようには思えまませんでしたし、障害者の問題に関してもとくに異論はないものの優等生的な記述がつづき、社会学の醍醐味を充分に感じたというところまではいきませんでした。もちろんそれは私がヒネた読者であるからに違いなく、著者が極めて真摯な社会学者であることは疑えません。

考えてみればすぐわかるように、私たちが普段生きているとき、具体的に出会う人々よりも出会わない人の数の方が圧倒的に多いのです。とすれば出会わない人々と自分が「今、ここ」で生きているとはどういうことなのかなどを考え、「見たことのない、会ったことのない他者」が同じ時間を生きていることへの想像力を鍛え他者理解のセンスを磨くことは、けっこう面白い営みではないでしょうか。(p189)

「今、ここ」と「会ったことのない他者」とをいかにつなげて考えていくのか。口でいうほど簡単なことだとは思えませんが、具体的にそれをイメージし実践するのは読者自身なのだというところでしょうか。

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