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♫勝ちぬく我等少国民!?〜『戦時下の絵本と教育勅語』

◆山中恒著『戦時下の絵本と教育勅語』
出版社:子どもの未来社
発売時期:2017年11月

戦前、国民に直接的な影響を及ぼしたのは憲法よりもむしろ教育勅語だったことは多くの人が指摘しているところです。本書はそうしたことを明言しているわけではありませんが、著者の山中恒自身の教育勅語体験をまじえながら、戦時下の絵本を検証し、子供向けの出版物をとおして軍国主義化のプロセスの一端をあとづけるものです。

山中は1931年の生まれ。国民学校における修身の授業で教育勅語の精神を叩き込まれた世代です。

戦前の国体の中核となった天皇の神格化については、文部省が1937年に『国体の本義』を出して主導し、教育勅語の精神を盛り込んだ教科書で学校現場に浸透させていきました。一方、商業出版では子供向けの絵本などにも国家の方針に協力する姿勢が鮮明にみられるようになりました。

1931年の満洲事変から、上海事変、満洲国建国へとすすむ中で、絵本では軍人の美談が多く取り上げられるようになったといいます。当時は日本側の謀略による侵略的行動が始まっていたため、「日本側の策謀を正当化しようと、陸軍は大衆受けする戦争美談をマスコミに提供」する必要があったのです。美談の代表的な例としては「爆弾三勇士」の話がよく知られていますが、戦後になって、勇ましい自爆ではなく、導火線の不備による事故だったことが明らかになりました。軍人にまつわる美談には事実の歪曲や誇張などが含まれていたわけです。

興味深いのは、著者がとくにはっきりと指摘しているわけではないけれど、日本の拡張政策が進展すると、占領した国の子供たちや自然については(上から目線であることは否めませんが)批判的な論評を抑えているように見受けられる点です。悪しざまな表現はもっぱらその時点で戦っている中国軍や英国軍などに向けられていたようです。アジア人民に対するあからさまな蔑視の描出は、当時日本が喧伝していた大東亜共栄圏の建前に照らしてそぐわないという判断が軍にも出版社にもあったのかもしれません。

本書を一読して感じるのは、出版の営みが時の公権力と結託することの怖さや不気味さです。とりわけ子供たちが親しみやすいメディアを活用したプロパガンダは、大きな影響力を持ったに違いないと思われます。
昨今、近隣諸国への偏見や謬見を煽るような出版物の刊行が相次いでいますが、歴史の教訓から学べることは少なくないはずです。

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