新聞記者の弾けた文体を楽しむ〜『仕方ない帝国』
◆高橋純子著『仕方ない帝国』
出版社:河出書房新社
発売時期:2017年10月
著者の執筆当時の肩書は朝日新聞の政治部次長。肩書とのギャップを感じさせる今風のカジュアルな弾けた文体がひとつの持ち味といえるでしょうか。もっとも内容以前にそこが非難の的になったりもしているようですが。
本書に収められた文章の論題は政治問題にとどまりません。あえてキーワードを一つピックアップするなら「自由」ということになるでしょうか。自由をめぐって自由を求めて、思考し行動する著者のすがたが随所ににじみ出ているように思われます。自由の観点からすれば、安倍政権の強権的政治も、上司のマウンティングも、世間の掟も、おしなべて批判や懐疑の対象となります。もちろんその基本姿勢に異存はありません。
後半に収録されているインタビューは人選に明確なコンセプトが感じられず、良くも悪しくも多方面からオピニオンを汲み取ってくる新聞の性格を反映しているようです。白井聡や片山杜秀らの発言は彼らの著作を読んでいる者にはほとんど新味はありませんが、そのなかで特定秘密保護法案に賛同した長谷部恭男との丁々発止のやりとりは読み物としては面白い。
ただそれにしても、こうして本になったものを読んでみると、紙面で読んだ時と比べてなんだかインパクトが薄まったような読後感が残るのはなぜでしょう。紙面では他のありきたりな文体で書かれた記事の中で、彼女独特の文体が異彩を放っているように感じられたものですが。書籍という形に収められてしまうと、比較の対象となるのは彼女の同僚記者の退屈な文章ではなく、世界中で刊行されている数多の本。このようなスタイルの文章なら、あのコラムニスト、この作家の方が……とつい思ってしまうのかも。読者というのはまことに勝手な存在です。
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